第1章 砂の中の猫

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 だんだん当たり前のようになってきている。猫ロボットたちが突然現れ、振り返ったら必ず消えているということが。  七都はもう、必要以上に緊張したり、戸惑ったりはしなくなりつつあった。  確実に慣れてきている。  それは、自分を無意識に防御しているということなのかもしれなかった。  猫ロボットに左右から挟まれ、グリアモスが座っていた。  三匹とも砂の上に、うなだれたようにうずくまっている。  彼らの横には、やはり砂に突き刺さった銀の円盤。  グリアモスの取れた二本の腕は、元通り、ちゃんとその両肩から伸びていた。  体育座りをしている膝のところで、指がきっちりと組まれている。  七都は、ほっとした。  よかった。くっついてる。  やっぱりアンドロイドなんだ。  自分で直したのかな。  三匹は、通りかかる七都をいっせいに見上げた。  期待のこもった、すがるような眼差し。  もちろん、猫ロボットのオパールのような目も、グリアモスの銀色がかった薄いブルーの目と黒い線の瞳も、相変わらず表情は読み取れなかったが、七都はそんな気配を感じた。 <オネーサン、待ってたんだよ> <出番だよ>  そう告げられてるような気分だった。 (すみません。無視しますってば。無視っ!)  七都は、真正面の砂漠の風景をただひたすら睨みながら、彼らのそばを通り過ぎた。  少し歩いて、振り返る。  もちろん、そこには何もない。  まったく、もう。  いちいち振り向く私も私だ。  もう振り向くの、やめなくちゃ。  七都は進行方向に向き直ったが、その途端、何か固いものが足に当たった。 「ぎゃっ!!」  その固いものにけつまずき、七都はもんどりうって、砂の中に転倒する。  七都のそばに、例の銀色の円盤が埋まっていた。  七都がつまずいたのは、その円盤だったのだ。 「な、何でこんなところにっ!」  七都は、上半身を起こす。  真正面に、黒いマントのグリアモスと銀の猫ロボットが二匹、並んで座っていた。  彼らとまともに目が合ってしまう。 <それ、砂から出してよ> <そうだよ。オネーサンなら、出来るでしょ>  猫ロボットたちのうるうる目が、そう言っている……ような気がする。 <私には無理ですから。ご覧になったでしょう>  グリアモスの薄いブルーの目は、そう言っていた、たぶん。
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