第1章 砂の中の猫

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 魔貴族たちはお茶を飲みながら談笑しているが、チョコレート色のグリアモスと猫ロボットは、黙って座っていた。機械なのだから、お茶は飲めないのかもしれない。  彼らは、明らかに全員が七都を見ていた。  そんなにあからさまな態度ではない。けれども、しっかり気にかけている、という感じだ。  たとえば、猫が無関心を装いながらも、耳だけはちゃんとこちらを向いている。そんな雰囲気。  そして彼らの間には、妙な緊張感が漂っていることに、七都は気づく。  何だろう、このピンと張り詰めたような、変な空気……。  もしかして、このお茶会のメンバー、表面的にはとても穏やかそうだけど、実は仲がよくない?  どうでもいいことだったが、七都は何となく、そんなふうに想像してみる。  七都は、彼らのテーブルがある場所を、何事もなく無事に通り過ぎた。  奇妙なお茶会は、視界から消えてしまう。  七都は深呼吸をした。  そして、念のため、振り返る。  やはりお茶会の場所には、砂の平地しかなかった。  七都の体から、力が抜ける。  もういい加減、やめてほしい……。  ずっと続くのかな、こんなのが。  退屈しのぎにはなるけど、どっと疲れる……。  けれどもすぐに、前を向いて歩く七都の唇から、幾度目かの溜め息が漏れる。  またか……。わかっていたけど。  再び、お茶会をしている人々が、砂漠に現れていた。  相変わらず、なごやかな雰囲気だ。  猫ロボットの一匹が、足をぶらぶらさせてテーブルの上に腰掛けている。 「ストーフィ、お行儀が悪いわよ」  テーブルのそばを通り過ぎるとき、七都の耳に女性の声が聞こえた。  きれいな落ち着いた声だ。  おそらくお茶会メンバーの魔貴族の女性だろう。  少女の声ではない。もっと年上。二十代半ばくらいだろうか。 (ストーフィっていうんだ、あの銀猫ロボット)  七都は、前方を見つめながら思う。  だが、テーブルに乗っかっている猫ロボットの名前がそうなのか、それとも猫ロボットを総称してそう呼ぶのかは、もちろん定かではない。  七都は、脇目も振らずに、お茶会の横を通り過ぎる。  通り過ぎたあとも、そのまま七都は砂の上を歩き続けた。  もう振り返る気にもならない。消えていることは確実だ。何の気配も感じない。  引き続き歩いていると、さらにまた七都の進行方向に、例のお茶会が現れる。  しつこいなあ。もちろん、無視だ。  テーブルの上に座っていたストーフィは、今度は黒いマントのグリアモスの膝に乗っていた。  そして、お茶会の雰囲気が先程とは微妙に違うことを、七都は感じる。  もう誰も笑っていなかった。  ぴんと張り詰めた空気に、さらにぴりぴり度がプラスされている。  お茶会のメンバーは全員、黙りこくったまま座っていた。  猫ロボットとグリアモスは最初から喋ってはいなかったが、さっきは確かにもっと機嫌よく座っていたような気がする。だが今は、困ったような様子だった。身の置き場がない、というような。  七都は構わず、その横を通って行く。  通り過ぎても、もちろん振り向かない。  彼らが消えているのはわかっているのだから。
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