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ラーディアは扉をたたき、一呼吸置いてから、客間に入った。
そこは、光の都に通じる黒い扉から現れた使者たちを案内した部屋だった。
「カトゥースをお持ちしました」
ラーディアと共に部屋に入った二人の侍女が、テーブルの上にカトゥースのお茶のセットを置く。
部屋の中に、芳しい香りが漂った。
「ありがとうございます」
使者が言う。
客間には、白いフード付きマントをまとったままの使者が一人しかいなかった。
背が高いほうの、よく通る声を持った使者の姿がない。
侍女たちは一礼をして、部屋から下がる。
ラーディアと使者は、客間に二人きりで残される形となった。
「あの……。もう一人の方は……?」
ラーディアが訊ねると、彼は困ったように肩をすくめた。
フードを深く下ろしているので顔は見えないが、かなり恐縮しているような様子だった。
「申し訳ありません。散策に出てしまいました」
「散策……ですか?」
ラーディアは驚いて、金色の目で彼を見つめる。
もちろん、こういう状況で使者の片方が散策に出て行くなど、考えられないことだからだ。
「彼は、子供の頃からそういう性格なのです。興味を持つものを見つけたら、すぐに確かめなくては気が済まないという……」
使者が言った。
「まあ。幼なじみでいらっしゃるの?」
ラーディアが微笑む。
「ええ。彼とはいろんなところで、いろんなことをして遊びましたよ。大人になってからは、あまり会うこともなくなりましたが」
「そうですか。私にも幼なじみはおりましたが……」
ラーディアは、深い紫色の髪をした、美しい少女を思い出す。
「一緒に大人になることは、もう出来なくなりました。だから、ちょっとうらやましいです」
彼は、ラーディアに興味を示したようだった。
フードの奥の目が、たぶんラーディアを真っ直ぐ見つめている。
ラーディアはその視線に緊張したが、それがやさしく穏やかなものであることを感じ取る。
「亡くなられたのですね……」
彼が言った。溜め息混じりに。
彼の言葉と溜め息には、彼が知らないはずの娘の死に対する、深い哀悼がこもっていた。
ラーディアは、嬉しく思う。
「不幸な亡くなり方でした。彼女の最後に立ち会ってくださったのは、ナナトさまです」
「ナナトさまが……」
使者が呟く。
「そういえば、ナナトさまのご様子は? とてもひどい怪我をされているようでしたが、治られたのですよね?」
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