52人が本棚に入れています
本棚に追加
「ナナトさまをご存知なのですね。ええ。ジエルフォートさまが治してくださったとか。血止めの薬が切れて、大量出血なさったそうですが、本当によかったです。もう私、いつまでもあの方が戻られないから、心配で心配で……。エルフルドさまたちが扉を開けて帰って来られたとき、気が遠くなるくらい安堵致しました……」
ラーディアは、ふと我に返って言葉を切る。
「あ、ごめんなさい。初めて会った方にこんな話を……」
あまりにもやさしい眼差しを感じたので、つい長々と私的なことを話してしまった。
ラーディアは、後悔する。失礼なことをしてしまった。
けれども、彼はラーディアに言った。
「いえ。もしよろしかったら、このまま私に付き合ってくださいませんか? あなたとお話がしたい」
「え……」
「彼もまだ当分帰って来ないようです。ナナトさまはお休みになっておられるということですし、エルフルドさまはお食事のあと、お湯浴みをされておられるのでしょう? ここで長い時間一人で残されるのも、結構つらいですよ」
「あ……。はい。この屋敷に来られるお客様の応対は私の仕事ですので、喜んで……」
ラーディアはそう言ったものの、少し不安げに、フードの奥を見つめる。
彼は、その視線に気づいたようだった。
「ああ、そうですね。あなたには、まだ顔もお見せしていなかった。あなたは気丈に応対してくださったが、もしかして、とても怖い思いをされたのでは? 幽霊のような、見知らぬ白い姿のものが二人、突然扉を開けて現れたのですから」
使者が言う。
「ええ。とても怖かったです」
ラーディアは、素直に答えた。
「それは、申し訳なかったです」
使者は、両手をフードにかけ、それをゆっくりと下ろす。
ラーディアは、白いフードの下から現れた、赤銅色の髪と紫がかった青い目を持つ美しい若者の顔を、頬を染めて眺めた。
最初のコメントを投稿しよう!