52人が本棚に入れています
本棚に追加
七都は、目を開けた。
気分がとてもいい。
今まで枷のように体を縛っていた鈍いだるさは、完全に消えていた。
大きく呼吸をしても、もう妙な圧迫感もない。
息をするのもスムーズだった。何の不安もなく、息が静かに穏やかに呼吸が出来る。
そして、体は羽根のように軽かった。ベッドを少し押しただけで、ふわりと浮き上がりそうだ。
この感覚、どれくらいぶりだろう。
たぶん、一番最初にこの世界に来たとき以来だ。
二回目に来てすぐ、グリアモスに襲われたのだから。
七都はそっと、傷があったあたりをさわってみる。
そこには何もなかった。切れ目もくぼみも盛り上がりも。
そういうざわついた不快な違和感は、いっさい感じられない。
なめらかですべすべの肌が、どこまでも続いている。
七都の指は、自分の肌の上を弾むように、そしていとおしむように、滑って行く。
指が、首に近い胸のあたりで何かに触れた。
丸い粒の連なり。それが七都の首に、幾重にもなって巻きついている。
七都は、それをつまみあげた。
「ネックレス……?」
七都は、起き上がった。
やわらかい光を放つ宝石が、首にかけられている。
それは真珠だった。ごく淡いピンクの見事な真珠のネックレスが、胸を飾っている。
そして七都は、自分が、リビングの扉の色によく似たアイスグリーンのドレスを身にまとっていることに気づいた。
レースのような花の透かし模様がある、ふわりとしたドレスだった。胸が大きく開いている。
ドレスの上には、赤紫の光る糸で刺繍がされた透明な銀色のショールがかけられ、七都の上半身をゆったりと覆っていた。
もう傷を気にして、ドレスのデザインを選ばなくてもよくなったんだ。
七都は嬉しかった。
ゼフィーアもアーデリーズも七都のために、傷を隠してくれるようなデザインのドレスを用意してくれていた。
けれども、もうそうしてもらう必要もない。
これからは、どんなデザインのドレスだって着られる。
胸がどれだけ開いていようと、お腹が見えていようと、脇がすとんと開いていようと。
もちろん、あまりきわどいのは、七都の性格上、やはり遠慮はするだろうが。
「これ、エルフルドさま……アーデリーズが着せてくれたのかな」
七都は周囲を見渡して、にっこりと微笑む。
そこに、当のアーデリーズが座っているのを見つけたのだ。
アーデリーズは、眠っていた。
七都のベッドのそばに置いた椅子の背もたれによりかかり、少しうつむいて、目を閉じている。
彼女は美しかった。
入浴直後で、髪もまだ濡れている状態。
アクセサリーは、冠が形を変えた金の細い輪を額にはめているだけだった。
着ている服も、キャミソールのような簡単で質素なもの。
それでも彼女の肌は、輝く白い陶器のようだった。
赤い髪も、水を含んでいることによって動きのある曲線をたくさん描き、それ自体が衣装か装飾であるかのように、彼女の背中を覆っていた。
金の瞳は、瞼の奥に仕舞われてはいたが、その代わり印象的な赤い睫毛が、彼女の唇とともに、この上なく美しい三角の配分で、艶やかな顔の中にはめ込まれていた。
(エルフルドさま、やっぱりきれい……)
七都は、しばし彼女に見惚れる。
(お風呂上りだから、なんとなく色っぽいし。イデュアルやここの女の子たちが心酔するのも納得……だな)
最初のコメントを投稿しよう!