第5章 二人の使者

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 七都は、目を開けた。  気分がとてもいい。  今まで枷のように体を縛っていた鈍いだるさは、完全に消えていた。  大きく呼吸をしても、もう妙な圧迫感もない。  息をするのもスムーズだった。何の不安もなく、息が静かに穏やかに呼吸が出来る。  そして、体は羽根のように軽かった。ベッドを少し押しただけで、ふわりと浮き上がりそうだ。  この感覚、どれくらいぶりだろう。  たぶん、一番最初にこの世界に来たとき以来だ。  二回目に来てすぐ、グリアモスに襲われたのだから。  七都はそっと、傷があったあたりをさわってみる。  そこには何もなかった。切れ目もくぼみも盛り上がりも。  そういうざわついた不快な違和感は、いっさい感じられない。  なめらかですべすべの肌が、どこまでも続いている。  七都の指は、自分の肌の上を弾むように、そしていとおしむように、滑って行く。  指が、首に近い胸のあたりで何かに触れた。  丸い粒の連なり。それが七都の首に、幾重にもなって巻きついている。  七都は、それをつまみあげた。 「ネックレス……?」  七都は、起き上がった。  やわらかい光を放つ宝石が、首にかけられている。  それは真珠だった。ごく淡いピンクの見事な真珠のネックレスが、胸を飾っている。  そして七都は、自分が、リビングの扉の色によく似たアイスグリーンのドレスを身にまとっていることに気づいた。  レースのような花の透かし模様がある、ふわりとしたドレスだった。胸が大きく開いている。  ドレスの上には、赤紫の光る糸で刺繍がされた透明な銀色のショールがかけられ、七都の上半身をゆったりと覆っていた。  もう傷を気にして、ドレスのデザインを選ばなくてもよくなったんだ。  七都は嬉しかった。  ゼフィーアもアーデリーズも七都のために、傷を隠してくれるようなデザインのドレスを用意してくれていた。  けれども、もうそうしてもらう必要もない。  これからは、どんなデザインのドレスだって着られる。  胸がどれだけ開いていようと、お腹が見えていようと、脇がすとんと開いていようと。  もちろん、あまりきわどいのは、七都の性格上、やはり遠慮はするだろうが。 「これ、エルフルドさま……アーデリーズが着せてくれたのかな」  七都は周囲を見渡して、にっこりと微笑む。  そこに、当のアーデリーズが座っているのを見つけたのだ。  アーデリーズは、眠っていた。  七都のベッドのそばに置いた椅子の背もたれによりかかり、少しうつむいて、目を閉じている。  彼女は美しかった。  入浴直後で、髪もまだ濡れている状態。  アクセサリーは、冠が形を変えた金の細い輪を額にはめているだけだった。  着ている服も、キャミソールのような簡単で質素なもの。  それでも彼女の肌は、輝く白い陶器のようだった。  赤い髪も、水を含んでいることによって動きのある曲線をたくさん描き、それ自体が衣装か装飾であるかのように、彼女の背中を覆っていた。  金の瞳は、瞼の奥に仕舞われてはいたが、その代わり印象的な赤い睫毛が、彼女の唇とともに、この上なく美しい三角の配分で、艶やかな顔の中にはめ込まれていた。 (エルフルドさま、やっぱりきれい……)  七都は、しばし彼女に見惚れる。 (お風呂上りだから、なんとなく色っぽいし。イデュアルやここの女の子たちが心酔するのも納得……だな)
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