第5章 二人の使者

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(今の笑い方って……)  七都は鏡を放り出して、上半身を起こす。  白い影――。  それは、真っ白のフード付きマントをまとった、背の高い人物だった。  透き通ってはいない。やはり、そこに現実に存在しているものだ。  眠っているアーデリーズを眺めて、少し首をかしげるようなポーズ。  フードの中からは、雪と氷で出来たような白い髪が、ふわりとこぼれ出ていた。  その人物は、ゆっくりと眠っているアーデリーズに接近して行く。 「ジエルフォートさまっ!!!」  七都が叫ぶと、白いマントの人物は、驚いたときの猫のように飛び上がった。 「な、なんだ。起きていたのか」  振り返ったその人物は、七都がよく知っている人だった。  ジエルフォート。  アーデリーズが『スウェン』と本名で呼んでいる、白い髪の光の魔王。  ジエルフォートはフードを取り、逆立った髪を丁寧に撫で付けた。  七都は、会釈する。ベッドの上なので、あまり本格的には出来なかったが。  もっとも、まだ正式なお辞儀の仕方はキディアスに習っていないので、実は会釈みたいなものしかできない。 「ジエルフォートさま。あの扉を通って、地の都に来られたんですね?」  七都が訊ねると、彼は頷いた。 「初めてこちらに来た。アーデリーズには断るようなことを言ってしまったが、君のことが気になったしね」 「ありがとうございます」  七都は、再び頭を下げる。 「だが、私がこちらに来るとなると、何かと騒ぎになるのでね。たまたま幼なじみが訪ねてきたので、協力してもらった。ジエルフォートの使者として……ただの魔貴族として、こちらに来たってわけ」 「お忍びってことですか……」  七都は呟く。  ジエルフォートは、にっこりと笑った。 「楽しかったよ。今もちょっと、この屋敷の中を散策してきたところ」 「でも、あのう。エルフルドさまに知られたら、怒られるんじゃ……」 「たぶんね」  彼は、あっさりと認める。 「エルフルドさま、よく眠っておられますね」  七都は、アーデリーズを見つめる。  彼女は深く眠っているようだった。ジエルフォートの気配にも、七都たちの会話にも全く気づいていない。 「ずっと君のことを心配していたからね。君が水槽の中にいる間、ほとんど眠っていなかった。安心したんだろう」 「そうなんですか……」  ごめんなさい、アーデリーズ。心配かけて。  きっと自分のせいで私が大量出血したって思ったんだよね。  七都は、眠っている彼女に謝った。 「ナナト。気分は?」  ジエルフォートが七都に訊ねる。 「とてもいいです。なんだか、生まれ変わったような気分です」 「そう。それはよかった」  けれども、ジエルフォートは眉を寄せる。 「ナナト。確かに今の君は、エディシルに満たされて美しい。気分もいいだろう。空腹感もまだないはずだ。だが、それはいつまでも持たないよ。君はエディシルを取ることを拒否しているらしいが、そういうことを続けていてはいけない」 「やっぱり、カトゥースとか蝶ではだめってことですよね」 「ああいうものはね……」 「わかってます。お菓子とかデザートみたいなものだってこと」  ジエルフォートは、大きく頷いた。 「長い間そういうものでごまかしていると、どういうことになるか知ってる?」  ジエルフォートが、七都の顔を覗き込んだ。 「病気になってしまう……?」  七都が答えると、彼は首を振った。
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