第5章 二人の使者

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「君の体は、君の意思を無視するようになる。ある日突然、暴走するんだ」 「暴走?」 「君のその透き通った赤い眼は、闇に閉ざされる。人間やアヌヴィムはおろか、魔神族に対してさえ、エディシルを求めて襲うようになる」 「自分を見失うと……?」  イデュアルのように?  風の都を壊滅させたという、何代か前のリュシフィンのように?  七都は、穏やかな、けれども真剣な眼差しのジエルフォートの目を見つめた。 「君は魔力が強いようだからね、風の姫君。君が暴走して、そのまま元に戻らなかったら、とてもやっかいなことになる。我々魔王は、それなりの対応をしなきゃならなくなるんだよ。たとえ君が、別の一族の姫君でも。たとえリュシフィンが、どんなに君をかばっても……」 「あ……」  あの石畳の処刑場。  魔神族が魔神族を処刑するための、あの場所。  あの恐ろしい石の椅子を七都は思い出す。 「処刑されてしまうんですね。イデュアルみたいに……。私は太陽には溶けないから、きっと別の方法で……」  ジエルフォートは七都を抱き寄せ、安心させるように頭を撫でた。 「だいじょうぶだよ。きちんと普通に食事を取っていれば、そういうことになはならない」 「きちんと食事……。私にはそれが無理なんです……。人間のエディシルを奪うなんて……」 「無理でも取らなきゃならないよ。アヌヴィムから、少しだけエディシルをもらうことから始めてみればいい。グリアモスでもいいけどね」  アヌヴィム……。シャルディン? セレウス?  グリアモス……。ナチグロ=ロビン? カーラジルト?  彼らからエディシルをもらわなきゃならないの?  彼らの生体エネルギーを常食にするの?  そんなの、そんなの……。  やっぱり、無理かもしれない、ジエルフォートさま……。  七都は、うなだれる。 「ところで、私の幼なじみが、君に面会を求めているんだけどね。会ってみるかい、姫君?」  ジエルフォートは、話題を変えた。 「面会? ジエルフォートさまの幼なじみ……ですか? 私、光の都に知り合いはいませんが……」 「向こうは君を知ってるみたいだけどね」  ジエルフォートは、七都に手を差し出した。 「隣の居間で話をしよう。アーデリーズを起こしてしまうから」 「そうですね」  七都は、ジエルフォートの手に自分の手を乗せた。  ジエルフォートは七都の手を包み込み、やさしくベッドから起こしてくれる。  やっぱり、ジエルフォートさま、いい人だよね。  ちょっとおっかなくて危ないマッドサイエンティストなんて思ってたけど。  本当に魔王さまって、素敵な人ばかりだ。  ナイジェルもアーデリーズも、ジエルフォートさまも……。  七都は、ジエルフォートにエスコートされながら、改めて思った。
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