第5章 二人の使者

22/42
前へ
/268ページ
次へ
「ジエルフォートさまの幼なじみ……。興味はありますね。会ってみます」 「そう。よかった。彼も喜ぶよ。この部屋の並びにある客間にいる。待ちくたびれてるんじゃないかな。一緒に来た私からも、ほったらかしにされてしまっているわけだから」  それからジエルフォートは、いつのまにか七都にくっついて寝室を出てきていたストーフィを見つける。  ストーフィは、七都の隣に座っていた。両手には、七都が放り出した鏡を持っている。 「今度は鏡か?」  ジエルフォートが、あきれたように呟いた。 「やはり、中を開けて覗いて見る価値はありそうだ。ばらばらに分解してしまおうかな」  ストーフィは、ジエルフォートの恐ろしいセリフを聞いて、七都と椅子の背もたれの間に、頭だけ突っ込んだ。 「ジエルフォートさま。なんでストーフィを際限なくアーデリーズに送るんですか?」  七都は、ストーフィの頭をクッションにして、ジエルフォートに訊ねた。 「賑やかになっていいだろ? 彼女が、この屋敷も城も殺風景で息が詰まるって言うから。こういうものがあっちこっちで動き回っていたら、気がなごむだろうしね。第一、楽しい」  理系男子っぽい答えかもしれない。  筋が通ってるし、もっともな理由……。  でも、ジエルフォートさま。  本当は、別のもっと単純な理由がおありでしょう? 「気がなごむし、楽しいかもしれませんが、それにしても多すぎませんか?」 「一度に沢山出来るからね。大量生産してるんだ。私の研究室に積んでおいても仕方がない。だったら、全部彼女に送るほうがいいだろ?」 「そりゃあ、そうかもしれませんが……」 「何なら、風の城にも送ってあげようか?」 「け、結構ですっ!!」  七都は、ジエルフォートの申し出を慌てて断った。  『風の魔王リュシフィン様気付 阿由葉七都様』  そういうことで、ストーフィなんかをしこたま送られたら……。  七都は、無数のストーフィに囲まれて途方に暮れているリュシフィンの姿を、おもわず思い浮かべてしまう。 「またまた、拒否された……」  ジエルフォートが、ぼそりと呟いた。 「あのう、ジエルフォートさま」  七都は、ジエルフォートをじっと見上げた。  私には関係のないことだし、よけいなおせっかいになっちゃうかもしれないけど。  でも、訊いてみよう。  七都は、決心する。 「ん?」  ジエルフォートが、薄いブルーが溶けた乳白色の目で、七都を見つめ返した。 「ジエルフォートさま。エルフルドさまのこと……いえ、アーデリーズのこと、好きですよね?」
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加