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七都は単刀直入に訊いたつもりだったのだが、ジエルフォートは、わざとなのか、それとも天然なのか、別の角度から答えた。
「もちろん。彼女と一緒に仕事をしていると、楽しいよ。いろんな着想を提供してくれるし。彼女といると、様々なことがはかどる」
「そういう意味じゃなくて。異性として好きですかって聞いているんです」
ジエルフォートは、びっくりしたように七都を凝視する。
なんだ、天然か。
もしかしてジエルフォートさま、自分で気づいてないの?
七都はあきれて、軽く溜め息をつきたくなる。
だが、ジエルフォートは、とても真面目な表情をした。
そして、少し姿勢を正す。
「好きだよ」
彼が言った。はっきりと、強い口調で。
「やっぱり、そうなんですね」
七都は、嬉しくなった。
じゃあ、じゃあ、両思いなんだ。二人とも、お互いのこと好きなんじゃない。
なんだ。別に私がやきもきしなくても、二人の仲は自然に進んで行くよね。
「アーデリーズも、ジエルフォートさまのこと、好きですよ、たぶん」
「そうなのか?」
ジエルフォートは、再び驚いたような顔をする。
あ。それは知らなかったんだ。あらら。
「ジエルフォートさま。告白されたらいいのに」
七都が言うと、ジエルフォートは眉を寄せた。
「告白? 私がか?」
「そうですよ」
「そんなことをしたら、今までの彼女との生活が、壊れてしまうじゃないか」
ジエルフォートが、この上なく真剣な様子で言った。
「は?」
「研究室での彼女との楽しく有意義な時間が、そういうことをすることによって、よそよそしく気まずい、別なものになってしまう。もう今までのようには、彼女と過ごせなくなる」
「だけど、好きなんだったら、自分のお気持ちを伝えられたほうが……」
「告白はしないよ」
ジエルフォートは、七都の言葉を遮って、きっぱりと言った。
「これからも、ずっとね」
「そんなの、ひどい!!!」
七都が叫ぶと、ジエルフォートは目をぱちくりさせて、七都を眺めた。
彼の生涯において、誰かに「ひどい!」などと叫ばれたことが、なかったのかもしれない。
「アーデリーズも、そうかもしれません。あなたとの今の関係を壊したくないって思っているのかも。だけど、本当は、アーデリーズは待ってるんです。あなたが好きだって告白してくれるのを!」
「そんな、まさか……」
ジエルフォートは、くすっと微笑みを浮かべる。
「わ、笑わないでくださいっ!! 私は、真面目に話してるんですっ! あなたはアーデリーズに告白しなきゃだめです! あなたのほうから言ってあげないと! アーデリーズは一見あんな感じだけど、本当は、とても素直で気弱でやさしい女の子なんですっ」
七都が言うと、彼は慌てて微笑みを消去した。
それから、咳払いをひとつして、七都に向き直る。
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