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「そうなったらそうなったで、覚悟を決められるというものだ。告白なんて生ぬるいことじゃなくてね。すべてが大きく変わるだろう。彼女との関係も、これからの生活も」
「それをきっかけにして、アーデリーズといきなり結婚するってことですか?」
「彼女が了承してくれればね」
「そ、そんなの……せこいですっ!!」
七都は、思わず叫んだ。
「せ、セコイ……?」
ジエルフォートがびっくり目で、七都のセリフを繰り返す。
しまった。魔王さまに向かって、『せこい』などと口走ってしまった。
七都は、両手で口を押さえた。
けれども、彼には言わなければならない。アーデリーズのために。
七都は口から手をはずして、ジエルフォートに向き直った。
「そんなの卑怯です。女性の発情に便乗しようなんて。自分では何もせずにっ!」
「そうかな。それはそれで、いいきっかけになると思うが。私の定まらない気持ちも、それで固まるだろうしね」
と、ジエルフォート。
子供っぽいんじゃない。オトナのズルさだ。
七都は、顔をしかめた。
「しかし、アーデリーズは発情しない。もう、長い付き合いになるんだがね。一切そういう兆候もない。人間の血が濃すぎたんだね、きっと。これからも発情はしないだろう」
「じゃあ、どうするんですか?」
「何もしないよ。今までと同じだ」
「そんなの、ひどいですっ!!!」
ジエルフォートは、苦笑した。
姫君、本日二度目の『ひどい』だね。そんな顔つきをしている。
「では、私にどうしろと?」
「その……。告白するのがお気に召さないのなら、態度で示すとか」
「態度?」
「さりげなく抱きしめてみるとか……」
「そんなことしたら、張り倒される」
「張り倒したりしませんよ。嬉しいはずです」
「いつもアーデリーズと顔を合わせたときは、軽く抱き合って、挨拶をしている。そのときにでも、押し倒したらいいのかな」
「だめですっ!!!」
七都は、くわっと口を開けて叫ぶ。
まったく。
このマッドサイエンティスト、なんてことを言うのだ。
「女性は、雰囲気を大切にするんです。いきなりそんなこと、だめですってば」
「面倒くさいな」
ジエルフォートが、溜め息まじりに呟いた。
「やっぱり、何もせずに、いつものように仕事の話をしているほうが楽そうだ」
「そういうことじゃ、何も変わりません」
「別に変えなくてもいい。我々魔神族には、消化しきれないほどの時間が、たっぷりとあるのだから」
今度は、七都が溜め息をつく番だった。
人間とは比べ物にならないくらいの長い時間を生きる魔神族。しかも、若い体と心のままで。
感覚が違うのかもしれない。
特に何かにあせることも、差し迫って何かをしなければならない必然性も、人間ほどにはないのかもしれなかった。
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