第5章 二人の使者

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 七都はあせったが、アーデリーズは、七都が心配した誤解はしていないようだった。  彼女の注意は、別のところに向けられていた。あるいは、自分で無意識にそうしたのかもしれなかったが。  彼女は眉をしかめ、ジエルフォートを睨んだ。そして、彼に言う。 「何であなたまで、ナナトの額に印を付けるのよ? どういう意味を持つか、わかってそうされたんでしょうねえ、ジエルフォートさま?」  七都は、額に手を触れた。  今のキスって……。  じゃあ、ナイジェルやアーデリーズがしてくれたキスと同じってこと?  ジエルフォートさまの口づけの印が、私の額に? 「君が付けていたから。そして、リュシフィンも、シルヴェリスもね。だったら、私も付けるまでさ。私もナナトのことが、とても気に入ったからね」  アーデリーズは肩をすくめる。そして、七都に微笑みかけた。 「四人目ね、ナナト。あなたの額には、四人の魔王の印がある。これは、とんでもないことよ」 「そうだね。全くとんでもないことだよ」  ジエルフォートが同意した。  四つの口づけのあと。  四人の魔王。リュシフィン、シルヴェリス、エルフルド、そしてジエルフォート。  七人の魔王のうちの四人の口づけの印が、自分の額にある。  考えただけで、沈んで行きそうだ。  四人の魔王さまに、マーキングされてしまった……。  でも、これは、自分の力になる。  この先またこの世界に来て、ここで動くときには、きっと助けてくれる。  だって、なんせ魔王さまのキスの印なんだもの。  愛されているという印。大切に思われているという紋章。これは宝物だ。  アーデリーズは、ジエルフォートから引き剥がすようにして、七都を抱きしめた。 「ナナト。本当によかった。元気になって」 「エルフルドさま……」 「アーデリーズだってば! ほんとにもう、何回言わせるのよっ」  アーデリーズが、七都を睨んだ。 「あんなにひどい怪我をしていたなんて、信じられないくらい。もう傷のあともないしね。きれいな体だわ。うっとりするくらいよ」  きれいな体って……。  アーデリーズもやっぱり、シャルディンみたいに、鑑賞しながらドレスを着せてくれたわけか。  七都は、はずかしくなる。  だが、すぐれた美的センスを持っているアーデリーズに褒められると、嬉しかった。 「アーデリーズ。ありがとう。私が眠っている間、ずっとそばにいてくれたんでしょう? あなたも疲れているのに。それに、このドレスも……」 「あなたのお母さまに言われたってこともあるからね。この子をお願いねって。だから、地の都にあなたがいるうちは、私はあなたを気にかける」 「お母さんが……」 「ナナト。あなたのお母さまって何者なのよ? 幽霊?」  七都は、アーデリーズの質問に首を振った。 「知らない。私も知りたい。でも、幽霊じゃないことは確かだよ。なんで幽体離脱してるのかわからないけど……」 「でも、まあ、我々に関係のある方だということは、ほぼ間違いないね。私も会ってみたかったな」  ジエルフォートが言った。「ところで、エルフルドさま。私も抱きしめてほしいんだけどね」 「は?」  アーデリーズが、じろりとジエルフォートを眺める。  う。突然何を言い出すんだ、ジエルフォートさま。  女性は雰囲気が大事だって言ったのに……。  七都は、頭を抱えたくなる。
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