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七都はあせったが、アーデリーズは、七都が心配した誤解はしていないようだった。
彼女の注意は、別のところに向けられていた。あるいは、自分で無意識にそうしたのかもしれなかったが。
彼女は眉をしかめ、ジエルフォートを睨んだ。そして、彼に言う。
「何であなたまで、ナナトの額に印を付けるのよ? どういう意味を持つか、わかってそうされたんでしょうねえ、ジエルフォートさま?」
七都は、額に手を触れた。
今のキスって……。
じゃあ、ナイジェルやアーデリーズがしてくれたキスと同じってこと?
ジエルフォートさまの口づけの印が、私の額に?
「君が付けていたから。そして、リュシフィンも、シルヴェリスもね。だったら、私も付けるまでさ。私もナナトのことが、とても気に入ったからね」
アーデリーズは肩をすくめる。そして、七都に微笑みかけた。
「四人目ね、ナナト。あなたの額には、四人の魔王の印がある。これは、とんでもないことよ」
「そうだね。全くとんでもないことだよ」
ジエルフォートが同意した。
四つの口づけのあと。
四人の魔王。リュシフィン、シルヴェリス、エルフルド、そしてジエルフォート。
七人の魔王のうちの四人の口づけの印が、自分の額にある。
考えただけで、沈んで行きそうだ。
四人の魔王さまに、マーキングされてしまった……。
でも、これは、自分の力になる。
この先またこの世界に来て、ここで動くときには、きっと助けてくれる。
だって、なんせ魔王さまのキスの印なんだもの。
愛されているという印。大切に思われているという紋章。これは宝物だ。
アーデリーズは、ジエルフォートから引き剥がすようにして、七都を抱きしめた。
「ナナト。本当によかった。元気になって」
「エルフルドさま……」
「アーデリーズだってば! ほんとにもう、何回言わせるのよっ」
アーデリーズが、七都を睨んだ。
「あんなにひどい怪我をしていたなんて、信じられないくらい。もう傷のあともないしね。きれいな体だわ。うっとりするくらいよ」
きれいな体って……。
アーデリーズもやっぱり、シャルディンみたいに、鑑賞しながらドレスを着せてくれたわけか。
七都は、はずかしくなる。
だが、すぐれた美的センスを持っているアーデリーズに褒められると、嬉しかった。
「アーデリーズ。ありがとう。私が眠っている間、ずっとそばにいてくれたんでしょう? あなたも疲れているのに。それに、このドレスも……」
「あなたのお母さまに言われたってこともあるからね。この子をお願いねって。だから、地の都にあなたがいるうちは、私はあなたを気にかける」
「お母さんが……」
「ナナト。あなたのお母さまって何者なのよ? 幽霊?」
七都は、アーデリーズの質問に首を振った。
「知らない。私も知りたい。でも、幽霊じゃないことは確かだよ。なんで幽体離脱してるのかわからないけど……」
「でも、まあ、我々に関係のある方だということは、ほぼ間違いないね。私も会ってみたかったな」
ジエルフォートが言った。「ところで、エルフルドさま。私も抱きしめてほしいんだけどね」
「は?」
アーデリーズが、じろりとジエルフォートを眺める。
う。突然何を言い出すんだ、ジエルフォートさま。
女性は雰囲気が大事だって言ったのに……。
七都は、頭を抱えたくなる。
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