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「え……?」
アーデリーズが、七都を見上げていた。首筋にジエルフォートの口づけを受けながら。
明らかに七都の反応をおもしろがっているような表情が、その金の目にはあった。
「アーデリーズっ!!」
「あら、ナナト。別に出て行かなくてもいいわよ。なに気を使ってるの。ここは、あなたのために用意した部屋なんだからね。あなたがこの部屋の主なのよ」
アーデリーズが言う。
彼女の手は、がっちりと七都の右足をつかんでいた。
身動きもできないくらいに、強い力で固定されている。
「ちょ、ちょっと、アーデリーズ!!」
七都はアーデリーズの手を引き離そうとしたが、さらに彼女の手は七都の足首にくいこんだ。
出て行かなくてもいいって?
一体どういう意味だよ?
「そこで座って、見ていたら?」
アーデリーズが、にやっと笑った。
「あなたも、恋人が出来たり結婚したりしたら、しなきゃならないことなんだから。しっかり見ときなさいよ」
ななななんてことを言うんだ、この人はっ!!!
七都は、助けを求めるようにジエルフォートに訴えた。
「ジエルフォートさまっ、アーデリーズがこんなことを言うっ!!!」
ジエルフォートが、口づけを中止して、七都を見上げる。
だが、彼のムーンストーンの目にはいたずらっぽい光が宿り、口元にはアーデリーズと同じような笑みが浮かんでいた。
「おや。私も一向に構わないよ。後学のために見ていたらいい。ナナトは、異性に告白したことがないようだからね。当然、こういうことのやり方も知らないだろう?」
そう言うなりジエルフォートは、アーデリーズへの口づけを再開した。さっきより激しくなっている。
信じられない。
かあっと顔が熱くなる。
どういう感覚をしてるんだ、この人たちはっ。
理解不能だっ。
「結構です、まだ早いですっ! 邪魔者は消えますっ! お二人だけで、ごゆっくりお過ごしくださいっ!!」
「あなたもゆっくり過ごしたら? ここで、私たちと一緒に」
アーデリーズが言う。
相変わらず口元には笑いが浮かんでいたが、やがてそれは、恍惚としたものに変わっていく。
七都は、扉のほうを向いた。
「そ、そうそう、私、ジエルフォートさまの幼なじみさんとやらに会わなければっ。ずっと待っててくれてるみたいですから。だからね、アーデリーズ。はなして。はなしてってば!!!」
アーデリーズがいきなり手を広げ、七都を開放する。
「あっ……!」
七都はそのはずみで、再び床に転倒してしまった。
だが、今度は素早く起き上がる。もう足は自由だ。
ストーフィが、扉を開けてくれていた。
七都は、その隙間から廊下へ走り出る。
勢いよく扉が閉まったあと、アーデリーズとジエルフォートは見つめ合い、微笑みあった。
「駄目じゃないか、コドモをからかっちゃあ、エルフルドさま。ナナト、もうほとんど泣きそうだったぞ」
ジエルフォートが、笑いながら言う。
「あなたこそ、ジエルフォートさま。いい加減にしなさい」
そして二人は遠慮なく、長い口づけを交わし合った。
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