第5章 二人の使者

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「え……?」  アーデリーズが、七都を見上げていた。首筋にジエルフォートの口づけを受けながら。  明らかに七都の反応をおもしろがっているような表情が、その金の目にはあった。 「アーデリーズっ!!」 「あら、ナナト。別に出て行かなくてもいいわよ。なに気を使ってるの。ここは、あなたのために用意した部屋なんだからね。あなたがこの部屋の主なのよ」  アーデリーズが言う。  彼女の手は、がっちりと七都の右足をつかんでいた。  身動きもできないくらいに、強い力で固定されている。 「ちょ、ちょっと、アーデリーズ!!」  七都はアーデリーズの手を引き離そうとしたが、さらに彼女の手は七都の足首にくいこんだ。  出て行かなくてもいいって?  一体どういう意味だよ? 「そこで座って、見ていたら?」  アーデリーズが、にやっと笑った。 「あなたも、恋人が出来たり結婚したりしたら、しなきゃならないことなんだから。しっかり見ときなさいよ」  ななななんてことを言うんだ、この人はっ!!!  七都は、助けを求めるようにジエルフォートに訴えた。 「ジエルフォートさまっ、アーデリーズがこんなことを言うっ!!!」  ジエルフォートが、口づけを中止して、七都を見上げる。  だが、彼のムーンストーンの目にはいたずらっぽい光が宿り、口元にはアーデリーズと同じような笑みが浮かんでいた。 「おや。私も一向に構わないよ。後学のために見ていたらいい。ナナトは、異性に告白したことがないようだからね。当然、こういうことのやり方も知らないだろう?」  そう言うなりジエルフォートは、アーデリーズへの口づけを再開した。さっきより激しくなっている。  信じられない。  かあっと顔が熱くなる。  どういう感覚をしてるんだ、この人たちはっ。  理解不能だっ。 「結構です、まだ早いですっ! 邪魔者は消えますっ! お二人だけで、ごゆっくりお過ごしくださいっ!!」 「あなたもゆっくり過ごしたら? ここで、私たちと一緒に」  アーデリーズが言う。  相変わらず口元には笑いが浮かんでいたが、やがてそれは、恍惚としたものに変わっていく。  七都は、扉のほうを向いた。 「そ、そうそう、私、ジエルフォートさまの幼なじみさんとやらに会わなければっ。ずっと待っててくれてるみたいですから。だからね、アーデリーズ。はなして。はなしてってば!!!」  アーデリーズがいきなり手を広げ、七都を開放する。 「あっ……!」  七都はそのはずみで、再び床に転倒してしまった。  だが、今度は素早く起き上がる。もう足は自由だ。  ストーフィが、扉を開けてくれていた。  七都は、その隙間から廊下へ走り出る。  勢いよく扉が閉まったあと、アーデリーズとジエルフォートは見つめ合い、微笑みあった。 「駄目じゃないか、コドモをからかっちゃあ、エルフルドさま。ナナト、もうほとんど泣きそうだったぞ」  ジエルフォートが、笑いながら言う。 「あなたこそ、ジエルフォートさま。いい加減にしなさい」  そして二人は遠慮なく、長い口づけを交わし合った。
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