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「おちょくられた。子ども扱いされて、からかわれたっ……!」
七都は、よろよろと廊下の壁にもたれかかる。
ストーフィが気の毒そうに、だが、どことなくおもしろがっているように、七都を見上げた。
「私、魔王さまたちにからかわれても、平然として動じず、それでもってセンスよく返せるようになりたい……。もちろん、満面の笑みで」
七都は、呟く。
「こんなところで、一体何をされているのやら」
背後から、聞き慣れたテノールの声がした。
振り返ると、キディアスとラーディアが立っていた。
二人は、きっちりと行儀よく座った二匹の猫のように、廊下の真ん中に並んでいる。
「あ。いえ、別に。その……」
七都は、呼吸を整える。
「ナナトさま。おきれいですわ。真珠がよくお似合いになって……」
ラーディアが嬉しそうに、そして、うっとりとして言った。
「ラーディア。ごめんね。相当心配かけたよね」
七都が手を取ると、彼女は、はにかむ。それから彼女は、きりりとした女官の顔になった。
「ナナトさま。光の都からの使者の方々がおいでです。ナナトさまに面会したいとのことなのですが……」
「うん。聞いた。会うよ」
「しかし今、使者は一人しかいませんよ。二人来たはずなのに」
キディアスが、少し腹立たしげに言う。
「もう一人は、この屋敷の中を散策に出かけたとか。全く、どういう使者なんだか。常軌を逸している」
「キディアス。ジエルフォートさまだよ」
七都はキディアスに近づいて、ささやいた。ラーディアに聞こえないように。
ジエルフォートは正体を隠してここに来ているのだから、もちろん彼女にはばれないようにしなければならない。
「はい?」
彼は、冬の海の暗いブルーの目で七都を見下ろす。
「もう一人の使者は、ジエルフォートさまなの!」
「……!!」
キディアスは、大きく目を見開いて、絶句した。
「使者の方々には、アーデリーズさまもご一緒に会われるとのことです。ところで、アーデリーズさまは、まだナナトさまのお部屋に?」
何も知らないラーディアが、訊ねる。
「え。ああ、うん。私の部屋にいるんだけどね……」
「では、お呼びして、お召しかえを」
ラーディアが、七都の部屋の扉を開けようとする。
「ああっ、入っちゃだめ!!!」
七都は慌てて、彼女を止めた。
もちろん今、彼女を部屋の中に入れるわけにはいかない。
ラーディアは不思議そうに首をかしげて、七都を見る。
「えーと、その。アーデリーズ、今、眠っているの。そっとしておいてあげて」
七都は言ってしまってから、後悔する。
もっとましな説明理由を思いつけなかったのだろうか。
自分の頭をごん、と思いっきり殴りたい気分だった。
「椅子に座ったまま、眠っておられるのでしょう? 先程、そうされると言っておられました。このまま、ここで少し眠ると。でも、ナナトさまがお目覚めになったら起こすようにと言われておりますので」
ラーディアは、扉に手を伸ばす。
「だめえっ!!!」
七都は叫んだ。絶叫に近かった。
ラーディアは、ますます不思議そうな顔をする。
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