52人が本棚に入れています
本棚に追加
「知識を得られる機会は、生かさなければなりませんよ」
「あれは、おちょくりだ。私、からかわれたの、魔王さまたちに」
「はずかしかったので、ごまかされたんですよ。まだ成人されていない方々には、教える義務がありますからね、我々年長者は」
「け、結構です。まだまだ早いです」
「早くはないですよ。では、ナナトさまが来られた世界では、そういうことはどなたが教えてくれるのですか? コウコウとやらですか? それともご家庭で?」
キディアスが質問する。
「両方とも、きちんとは教えてくれない。明らかに避けてる」
「では、どこで?」
「大人になるに従って、自然に覚えるものらしいよ」
どこかで聞いた無難な答えを記憶の中から探してきて、七都は口にした。
「自然に? ほおお。それはまた、便利な世界ですね」
キディアスが言った。
たぶん、それは自然じゃない。
その表現は、堅物の大人が責任逃れをするためと、決まり悪さを取り繕うための言い訳だ。
入ってくる知識は、今のところ、ませた友達のわけ知り顔な過激な話。
もちろんその多くは、七都には意味のわからないことも多い。
その友達が得た知識は、付き合っている年上の彼氏から。
その彼氏の知識は、おそらく商業的な成人向けの媒体からということになるのだろう。
しかも、その多くは男性側から見た、歪められたもの。
となると魔神族は、それに比べると、はるかに真摯で健全なのかもしれない。
「シルヴェリスさまも、まだお若いですからね。お二人とも、困られることになりませんか?」
相変わらず、どこまでもクールなキディアスが言った。
「なんで相手がナイジェルって決めるんだよ」
七都は、口をとがらせる。
「では、他にどなたがナナトさまのお相手だと? 元の世界の人間の男ですか?」
キディアスが、おもいっきり眉をしかめた。そんなの決して許しませんよ、という表情だった。
「とにかくね、誰かに自分のことを決められたくないの。私のことは、私が決める」
「結構ですね。それでこそ、ナナトさまです」
キディアスが頷いた。
先に立って歩いていたラーディアが、振り返る。
彼女とは、かなり距離が離れてしまっていた。
「あ、ごめんね。すぐに行くから」
七都は、小走りに彼女を追いかけようとする。
「ナナトさま。姫君はこういうところで、そういうふうに走ってはなりません」
七都の後ろで、ストーフィを抱きしめたまま悠然と歩くキディアスが、注意する。
もちろん彼とストーフィは、七都が何度眺めても、ストーフィの銀色の無機的な材質以外、全然マッチはしていなかったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!