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「私の世界から来たものだったら、とても嬉しい……」
七都は、呟く。
「でも、ナナトさまの額には、真珠よりももっと貴重なものが、また増えていますね」
ラーディアが、七都の額を遠慮がちに眺める。
「あ……」
七都は、額を押さえる。
「ジエルフォートさまの口づけの印……」
「いただいたのですか?」
キディアスが、溜め息をつく。
「うん。何かどさくさに紛れてもらったって感じだけど」
「すばらしいですね。四つ目ですか。しかし、シルヴェリスさまが気になさらないとよろしいのですが」
「気にするかも。彼、エルフルドさまの印も気になってたみたいだし」
「では、私がうまく説明しておきましょう」
キディアスが、にっこりと笑った。
七都は、鏡の中のキディアスの笑顔を見つめた。
カーラジルトとキディアス……。
二人とも同じ頃に出会って、同じ伯爵さまで、同じようにクールなんだけど。
カーラジルトは、笑わない。でも、キディアスは笑う。
時々ブキミっぽく、冷たく笑うけど、でも男の子のようにも笑う。とても魅力的に。
そこが違ってる……。
カーラジルト。私の化け猫さん。
いつか私に笑ってくれるかな。
七都は、もう一人の伯爵の、翡翠色の瞳を思い出す。
「ところで、あの使者は誰ですか? もうひとりが『あの方』だとするならば、残りのおひとかたは?」
キディアスが、いきなり笑顔を消滅させ、問い詰めるように七都に訪ねた。
「さあ……? まだ会ってないから」
「お部屋におられる方は、とても素敵な方ですよ」
ラーディアが言った。頬を赤らめている。
「そのようですね。侍女たちが、何やら騒いでいるようでしたから。彼は、ナナトさまのことを知っているとか。で、誰ですか?」
キディアスが、じろりと七都を見た。
「知らないってば。魔神族にそんな知り合いなんていないもの」
「でしょうね。ナナトさまがご存知の魔神族は、それほどいないはずです」
だって、キディアス。あなた、私をストーカーしてたもんね。
私自身よりそういうこと、よく知ってたりして。
身支度が終わった七都は、鏡の前から立ち上がる。
「では、ご案内致しますわ」
ラーディアが、化粧室の扉を開けた。
キディアスがストーフィを抱いたまま、黙ってさりげなく、手を差し出す。
七都はその黒い手袋の上に、自分の手を乗せた。
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