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「どこで会うの? 謁見の間とか?」
七都が訊ねると、ラーディアがおかしそうに笑う。
「この屋敷には、そういう堅苦しいものはありませんよ。お城にはありますけれどね」
「ナナトさま。ここは民家ですよ」
キディアスが、あきれたように言う。
ミンカって。ここが?
ここが民家なら、サイズ的には、うちはさしずめ鳥かごだ。
思わず、「鳥かごかぁ」と頭をかきながら苦笑している父の姿が浮かんだ。
「いちばん落ち着けそうな客間を選ばせていただきました。ナナトさまのお知り合いだそうですので、ごゆっくりくつろいで、お話をなさってください」
ラーディアが一つの扉の前で立ち止まり、手を上げる。
扉が、ひとりでに開いた。
そこは七都が使っている客間よりもさらに広い、ベージュと茶色を基調にしたシックな部屋だった。
壁には、どこかの異世界の風景らしき絵がかけられ、ガラスで出来た木のような大きなオブジェが置かれている。
中央には、深い葡萄色の椅子とテーブル。
そして、その前で、ひとりの人物が、丁寧に頭を下げていた。
白いフード付きマントの人物。
フードは下ろされ、赤銅色の豊かな髪が、渦巻くようにこぼれている。
七都はキディアスにエスコートされ、その人物の前に立った。
誰だっけ、この人。
でも、この髪の色、見覚えがある。
どこで見たんだったっけ。
「あなたが、使者さん?」
七都は、その人物に声をかけた。
「ナナト。約束を覚えていますか?」
その人物が頭を下げたまま、明るい声で訊ねる。
「え?」
「舞踏会で私と踊ってくださると。お約束いただきましたよね。踊れるようになりましたか?」
その人物が顔を上げる。
ネイビーブルーの目。薄紅色の唇。
七都に親しく微笑みかける、美しい若者。それは――。
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