第5章 二人の使者

36/42
前へ
/268ページ
次へ
「ジュネス……!!」  ジュネスは、七都の手を取って、唇を付けた。  キディアスは、ああ、この人か、という納得した顔つきをして、彼の様子を見守る。  キディアスに抱かれたストーフィは、<ダレ、コノヒト?>と言いたげに、キディアスと七都とジュネスを順番に眺めた。 「ああ、ジュネス。あなただったの……」 「ジエルフォートさまからあなたのことをお聞きして、来てしまいました」  ジュネスが笑う。  ジュネス――。 シャルディンの前の主人で、光の魔王の親戚。  七都のことを心配し、一緒に魔の領域に行くことを申し出てくれた人。  え。ちょっと待って。  光の魔王さまの親戚ってことは……ジエルフォートさまを知ってるってことだよね? 「ジュネス。ジエルフォートさまの幼なじみって、もしかしてあなたなの? 幼なじみに協力してもらってこちらに来たって……」 「ジエルフォート……さま?」  ラーディアが、怪訝そうな顔をする。 「そうです。扉の向こうの地の都に行きたいとおっしゃったので。私もあなたにお会いしたかったこともあり、二人で、ジエルフォートさまの使者として、こちらに来ることにしたのです」 「あ、あの……」  ラーディアが、遠慮がちに声をかけてくる。  七都は、彼女のほうを向いた。 「ごめんね、ラーディア。もうばらしちゃってもいいよね、ジュネス。彼女はエルフルドさま付きの女官で、ここの責任者なんだもの。知っておかなきゃならないと思う」 「そうですね。私も心苦しいです。この方をだますような真似をするのは」  ジュネスが言う。 「どういうことですか?」  ラーディアが眉を寄せた。険しい女官の顔になっている。 「つまりね。もう一人の、散策に出かけちゃったという使者の人は、ジエルフォートさまなの」  七都が言うと、ラーディアは、両手で口を覆った。  かなり驚いている。金色の目が、猫に負けないくらいに大きくなっている。 「ついでに白状しちゃうと……エルフルドさまのお相手は、ジエルフォートさまなんだよ」  ラーディアは、大きく息をした。  そして、たちまち自分を取り戻す。見事な切り替え方だった。 「そうなのですか。それは大変です。ジエルフォートさまをお迎えする準備をしなければ!」  ジュネスは、首を振った。 「ラーディア。そういうことが、ジエルフォートさまはお嫌いなのです。どうか、ただの使者としての応対を。正体は内緒にしておいてください」 「でも、ジュネスさま。それでは、あまりにも……。私の立場としては、ほうってはおけません。私に何もするなとおっしゃられるのですか?」  さすが女官をしているだけに、しっかりしてる。  七都は、感心する。  たぶんラーディアも、私とそんなに歳は変わらないだろうに。  私には、とても女官なんて務まらない。
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加