第5章 二人の使者

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「もしかして、水槽から出てきたジエルフォートさまに口づけをしました?」  七都が訊くと、ジュネスは明るく笑う。  この人、とても素直に笑うんだ。  七都は、彼の笑顔を眺めた。  人を見下した感じでもなく、冷たい感じでもなく、何の屈託もなく、本当に心から笑う。  この人もまた、とてもいい人なんだろうな。  シャルディンも、そう言ってたけど。  あの方は、魔神族にしておくにはもったいないくらいのいい方ですよって。 「しましたよ。何度も。水から引き上げられた彼は、この上もなく美しく、エディシルに満ちていましたから。そういえばあなたも、エディシルに満ちていらっしゃる。とても美しい」  ジュネスのネイビーブルーの目に見つめられて、七都は思わず後ずさった。  彼は、あははっと笑う。 「あなたにはしませんよ、そんなこと。ご安心を」  それから彼は、幾分憂いを含んだような、真面目な表情をした。 「また口づけの印が増えましたね、ナナト。四人の魔王さまに愛されていらっしゃる姫君。あなたは、シルヴェリスさまの婚約者だそうですね」  婚約者?  七都は、溜め息をつく。  いつのまにか、婚約者ってことになってる。  ジエルフォートさまだな、そういうオーバーなことをジュネスに言ったのは。  七都は、嬉々として頷いているキディアスを横目で軽く睨んだ。 「婚約はしてません、まだ」  あ、『まだ』なんて言ってしまった。  再び嬉しそうなキディアスと目が合い、七都は再び彼をちらっと睨む。 「そうなのですか。少し安堵しました。魔王さまのご婚約者と踊らせていただくのは、やはり気が引けますからね」  ジュネスが言った。そして彼は、魅力的なポーズで首をかしげ、七都に訊ねる。 「それで、踊れるようになりました?」 「少し……。たぶん、一曲だけなら踊れます。地の魔貴族の、公爵令嬢の女の子に教えてもらいました」 「十分です。私がここに来たのは、あなたにお会いしたかったから。そして、あなたをお誘いするためでもあります」 「誘い?」 「もうすぐ私の誕生日なのです」  ジュネスが言う。 「あ、それは、おめでとうございます」 「ありがとう」  誕生日……。  ジュネスって、いくつになるんだろ。  きっと、何百何十何歳。ジエルフォートさまがそうなのだもの。その幼なじみってことは。  年齢を聞くのって、失礼なことなのかな。  取りあえず、やめておくほうが無難かも。  七都は、何となく判断する。 「それで、その祝いの会があるのですよ。ぜひあなたにも出席していただきたいのです。そして、私と踊っていただきたい」  ジュネスが言った。 「それ……。舞踏会ってことですか?」  七都の質問に、ジュネスが微笑んで、大きく頷いた。  七都は、あせる。  舞踏会!!  その言葉の重みと華やかすぎるイメージに、床の下に沈んで行きそうになる。 「そそ、そんなの無理です。絶対、無理! 舞踏会なんて出たことないし、一曲しか踊れないしっ」
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