第5章 二人の使者

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「一曲で十分ですよ。あなたは美しく着飾って、そこにいてくださるだけでいい」と、ジュネス。 「……ってか、その舞踏会、いつですか?」  そうだ。そっちのほうが重要だ。 「十日後です」 「十日……」  七都はその助数詞を、確認するように呟いた。  完璧に、アウト。  やっぱりね。縁がなかったんだ、舞踏会。  ほっとすると同時に、少し惜しい気もする。 「ごめんなさい、ジュネス。十日後なんて無理です。私、もう怪我が治ったので、間もなく風の都に出発します。そして、リュシフィンさまに会ったら、すぐに元の世界に帰らなければなりません。たぶん、あなたのお誕生会が開かれている頃には、元の世界にいると思います」  その頃は、きっと自分の部屋で机に向かって、夏休みの宿題を必死でやってる。  そして、もちろん、そうなってなきゃならない。  私の本来の世界はそこで、私の本当の生活はそこにあるのだもの。  でも、行ってみたかった、舞踏会……。  子供の頃から、そういうのに憧れていた。  きれいなドレスを着て、宝石を付けて。  当然アーデリーズのことだから、ナナトの衣装は私が用意するわよって、頼まなくても言ってくれそうなのに。  そしてもちろん、彼女の選ぶドレスと宝石は、すばらしいものに違いないだろうに。 「そうなのですか、それは残念です。非常に残念だ……」  ジュネスが、寂しそうにうなだれる。 「すればいい。十日後の君の誕生会とは別のものを、ナナトが風の都に行ってしまう前に。たとえば、明日の晩にでもね。ナナトの快気祝いでも、歓迎会でも送迎会でも、理由はいくらでもあるだろう」  背後から、よく通る、聞き慣れた声がした。  キディアスとジュネスが、はっとしてその声のほうを注視する。二人の顔に、ぴりりとした緊張感が走った。  ジエルフォートが、そこに――ガラスの木のオブジェの前に、白い仙人のように立っていた。 「ジエルフォートさま!」  キディアスもジュネスも、優雅に、そして完璧なポーズで、深く頭を下げていた。  七都も、ぎこちなく会釈する。  え。もう部屋から出てきちゃったの、ジエルフォートさま。  アーデリーズは?  ジエルフォートは七都の視線を無視して、ジュネスに引き続き言った。 「それとも、明日の晩では、準備が出来ないかな? どうせ魔貴族はヒマなやつが多いのだから、君の親しい身内くらいは集まるだろう? ナナトも舞踏会は初めてみたいだから、あまり大規模なものでないほうがいいだろうしね」  七都は、彼をしげしげと眺めた。  まるで何事もなかったかのようだ、ジエルフォートさま。  いつもと同じように喋ってるし、表情だっていつもと変わらない。  アーデリーズと愛し合っていたなんて、これっぽちも想像出来ない。  これがオトナの演技力?  それとも、特にびっくりするようなことでもなく、まったくもって当たり前のこと?
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