第5章 二人の使者

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「ええ。その点はだいじょうぶです。みんな、そういう行事を好みますからね。すぐに集まるでしょう」  ジュネスが答えた。  それから彼は、少しためらうように、ジエルフォートに申し出る。 「ジエルフォートさま。あなたもおいでになりませんか?」  ジエルフォートは、笑って首を振った。 「誘うだけ無駄だ。私はそういうものに興味がないし、決して出ることはない。君も知っているだろう」  ジュネスは、七都が彼の誕生会の誘いを断ったときよりも、さらに寂しそうな顔をした。 「私の誕生会も、毎年お誘いしているのに、来て下さったことがありませんね。子供のときはよく……」 「ジュネス。君も子供のときのように、私をもう本名では呼んでくれないじゃないか?」  ジュネスは、黙り込む。  ジエルフォートは、七都のほうを向いた。 「ああ、別に踊れないわけじゃないぞ」 「訊いてませんっ。ところで、ジエルフォートさま。アーデリーズは?」  七都は、先ほどから胸のあたりにつかえていた質問を彼にぶつけてみる。  ジエルフォートさま。もう少し、アーデリーズのそばにいてあげたらいいのに。  ほったらかして、出てきてしまったの? 「君のベッドで眠っているよ。疲れたみたいだね」  それから彼は、七都に、にやりと笑ってみせた。 「それなりに、激しい運動をさせてしまったからね」  う……。  七都は、うつむきそうになる。  は、はずかしいからごまかしたって?  絶対にウソだ、キディアス。  わざとだ。カンペキにからかわれている。  でも、負けないっ。  けれども、魔王たちの下ネタおちょくり攻撃に対抗するには、年齢と経験が足りなさ過ぎる。  七都は、「はいはい」という感じでにっこりと微笑もうとしたが、明らかに顔は引きつっていた。 「ははっ、かわいいね、ナナト」  ジエルフォートが七都の反応を見て、満足そうに笑う。  やっぱり……。  全身から力が抜けた。 「で、でも、ジエルフォートさま。たとえ眠っていたとしても、アーデリーズのそばにもう少しいてあげても……」  七都が言うと、ジエルフォートは不思議そうに七都を見つめた。 「なぜ? アーデリーズには、これからも、いつでも会える。毎日でもね。だけど君は違う。今度いつ会えるかもわからない。もう二度と会えないということもあり得る。君は元の世界に帰ってしまって、こちらに来ることはないのかもしれない。だから、来た。ジュネスとの面会に立ち会いたい、というのもあったしね」  確かに。さすがに理系男子。  やはり、もっともで、筋の通ったことをジエルフォートは言う。  だが、アーデリーズは、ほったらかしにされて、寂しくないのだろうか。  七都は、思う。よけいなことかもしれないのだが。  目が覚めたとき、そばにジエルフォートさまがいなかったら。  なんか女の人って、そういうことすごく気にするって……ドラマとかでよくそんなシーンがあるし……。 「では、ナナトさま。明日の晩なら、出席していただけますか?」  ジュネスが七都に訊ねた。
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