52人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、はい……。正直、ちょっと不安なんですけど」
「だいじょうぶですよ、私がお守り致しますから」
ジュネス、やさしい。
なんて頼もしいことを言ってくれるんだろう。
ジュネスって、絶対に女の子を下ネタでからかったりしないタイプだよね。安心してお話が出来る。
それに比べて……。
七都に睨まれたジエルフォートは、七都の視線を無視し、涼しげな顔をして、そこに立っていた。
「では、明日の晩、お迎えに参ります、姫君」
ジュネスが言った。
「ありがとうございます」
七都はそれから、ジュネスに知らせておかなければならないことがあったのを思い出す。
それは、とても大切なことだ。
「ジュネス。あのう、私、あなたに知っておいてもらわなければならないことが……」
「シャルディンのことですね?」
ジュネスが言って、頷いた。
「ご存知なんですか? その、彼が私の……」
「やはり、あなたのアヌヴィムになったのですね? 彼の元気な姿を見かけたものがいるのです。ですから、また誰かのアヌヴィムになったのだと……。そしてあの時、そういうことが可能なのは、あなたしかいなかった。違いますか?」
ジュネスが確認するように、七都に訊ねた。
「はい。彼を助けたかったんです」
「ありがとう、ナナト。彼を助けて下さって。私も彼をあのまま死なせてしまうには忍びなかった。もっとも、私は彼を助けてやれなかったのですから、今さらそういうことを口にするのもおこがましいが」
「あなたにも、あなたの立場があったのですから。シャルディンも、あなたのことを恨んではいません。それどころか、今でも慕っていると思います」
ジュネスは、嬉しそうに微笑んだ。
「そう言ってくださると、心が軽くなります。しかし、ナナト。あの状態で彼をアヌヴィムにしたのですか? 相当きつかったのでは……」
「ええ。きつかったです。怪我がひどくなってしまいました」
ジュネスは、再び七都の手を取る。
「あなたは、とても強い姫君なのですね。別の世界から来られたというのに。たったひとりで人間たちの住む世界を通り、この魔の領域に無事に入って来られた。ひどい怪我を抱えながらも、アヌヴィムを作り、魔王さま方に口づけの印をいただいて……」
強いって……。
ジュネスにそう言われて、七都は悲しくなった。
違う。違うよ、ジュネス。
あなたはわかっていない。
強くなんかない。
気を張っているだけ。
崩れそうになる心をごまかして、なだめすかして、ここにこうして、かろうじて立っているだけ。
ちょっと振り向いたら……少し足元を見てしまったら、動けなくなってしまう。
もう、そろそろ限界なんだ。
風の城に着いてリュシフィンさまに会ったら、私、きっと倒れてしまう。
本当は、それくらい参ってるのに……。
ジュネスは、七都の思いを知らぬげに、もう一度七都の手に唇をつけた。
最初のコメントを投稿しよう!