第5章 二人の使者

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「じゃあ、ジュネス。そろそろ帰ろうか。エルフルドは眠っているから、彼女との謁見は中止だ。この屋敷の外も散策してみたかったのだが、それはまた別の機会にしよう」  ジエルフォートが言った。 「ジエルフォートさま。またこちらに……アーデリーズに会いに来てくださいますか?」  七都が訊ねると、彼は機嫌よく頷く。 「そうしたいね。もちろん、また正体を隠してね」  もう正体をばらして、堂々と来ればいいのに。  七都は思ったが、黙っていた。 「では、ナナト。元気で。リュシフィンによろしく。いずれまた会いに行くと、伝えておいてくれたまえ」  キディアスがお辞儀をしたので、七都も再び会釈する。  二人の姿は、客間から、霧のように消え失せた。  そして、扉の向こう側に二人分の足音が響き、それは次第に遠ざかって行く。  彼らは、再びあの黒い扉を開けて、光の都に帰るのだろう。扉を隔てたところにある、ジエルフォートの白い研究室に。 「では、一曲は踊れるのですね、ナナトさまは」  客間が静かになると、キディアスが七都に言った。 「イデュアルに教えてもらったの。あなたはあの城の中に来て、見ていたのでは?」  七都が幾分冷ややかに言うと、キディアスは首を振る。 「あの城には、さすがに入れませんでした。黄色の花に阻まれて。あの公爵家の姫君は、恐ろしい魔力の持ち主でしたよ」 「そうだね……」  七都は、胸のあたりに溜まってきそうになる感情を押さえつけて、呟いた。 「では、もう一曲、私がお教えしましょう。一曲より二曲踊れるほうがいいに決まっています。ついでに、お辞儀の仕方も。明日の晩までに、覚えていただきますよ」  キディアスが、にっと笑う。 「えっ。今から?」 「もちろんです。時間は余りありませんからね。ナナトさまは、もう怪我も完治されてますし、健康そのもの。私なんぞよりもお元気だ。容赦はしません。ああ、ラーディアさんにどこか練習できる場所を貸してもらえるよう、お願いしなければ」  『超ドS』のキディアス・デフィーエ伯爵は、ストーフィを抱きしめながら、弾むような声で、とても嬉しそうに言った。  七都は、うんざりして天井を見上げ、深い深い溜め息をつく――。
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