第6章 銀の城の舞踏会

2/20
前へ
/268ページ
次へ
 七都は、お菓子を一つ、つまむ。  やはり、どう見てもビスケット。ハンドメイドっぽい素朴な感じの、チョコレート味。  七都はぱくりと一口かじってみたが、かじった途端、それは口の中で綿菓子のように溶けてしまった。  あとには、カトゥースの香りが残る。  ビターテイスト。甘さはないが、すっきりとした味わいだった。  最初想像したような、ビスケットの、かさかさぱさぱさした食感は皆無だ。 「うん、おいしい。オトナの味って感じ」  七都が感想を述べると、アーデリーズは、くすっと笑った。  機嫌がいい。  目覚めたときにそばにジエルフォートがいなくても、別に問題はなかったらしい。 「よかったね、アーデリーズ」  七都は、彼女に言った。 「え?」 「ジエルフォートさまのこと……」 「ああ……。ありがとう。あなたがいろいろと骨折ってくれたみたいね」 「ううん。だって、二人とも思い合ってるってわかったから。ちょっとつついてみただけ」 「スウェンが言ってた。女の子にあんなこと言われたのは初めてだって」  アーデリーズは、くすくすと笑う。 「でも、私、ちょっと反省してるよ。かなり年上の人に、しかも魔王さまに、いろいろ批判的なこと言ってしまったかもって」 「楽しかったみたいよ。だからあなたの額に印をくれたんでしょう」 「ねえ。アーデリーズ」 「ん?」  アーデリーズはお菓子のかけらを口に放り込み、穏やかな金色の目で七都を見た。 「ジエルフォートさまと結婚するの?」  アーデリーズは、七都の質問に、声をたてて笑う。 「何でそう短絡的なことになっちゃうわけ?」 「だって……」  愛し合っている男女がいれば、当然結婚して、ハッピーエンド。  そうなってほしい。そうでなければならない。   それは、いろんなおとぎ話や本や映画やドラマで培われてきた、女の子としては当然の感覚だ。 「魔王同士の結婚はね、難しいの。お互いに背負っているものが大きすぎる」  アーデリーズが言った。 「そうなの?」 「もちろん、今までそういう例がなかったわけじゃないわよ。でも、うまくいかないことが多いみたい。側近たちの間で、いろいろな問題が起こったりしてね。後継者問題もね。だったら、別にこのままでもいい。結婚なんかしなくても、彼にはいつでも会えるわ。扉一枚隔てているだけだもの。いつも一緒にいられる……」 「なんか、ジエルフォートさまも、似たようなこと言ってた。あなたが眠っている間に、私に会いにきてくれたの。あなたにはいつでも会えるけど、私に会うのはこれが最後かもしれないからって。そのあと、そのまま帰っちゃったみたいだけど」 「そう……」  アーデリーズは、ふっと溜め息をつく。 「彼が言いそうなことね。でも、起きたとき、ひとりぼっちだったので、ちょっとだけ悲しかったわ。たとえこの先、毎日会えるってわかってはいても」
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加