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きらっ。
何か銀色のものが、柱の上で一瞬きらめいた。
七都が見上げたときには、もうそれは消え失せていた。
表面をすぱっと切ったような石柱のてっぺんには、何もいない。
今、あの上に誰かがいた。
輝いたのは髪だ。風になびく、長い銀色の髪……。
それが朝の太陽の最初の光を反射したのだ。
七都は確信する。
私を見ていた。確かに視線を感じた。
あれが普通の人間であるはずがない。
ここは魔の領域。
するともちろん、魔神ということになる。
(もしかして、エルフルド?)
七都はしばし、朝日を受け止めてやわらかく光を放つ石の柱のてっぺんを見つめたが、その人物が現れることは、もうなかった。
七都は石の柱に近づき、その表面に手を置いてみる。
半透明の石は、ひんやりと冷たかった。
そこに刻まれている模様を七都は指でたどる。
これ……。たぶん、文字だ。
七都は、その記号の連なりを見つめた。
それでこの、他よりも規則正しく並んでる部分は名前……。
きっとそうだ。
そこに刻まれている文字は、全く読めなかった。
この世界では、人々が話している言葉は理解できるのだが、文字は別なのかもしれない。
こじんまりと、のたくっている記号にしか見えない。
じゃあ、これは、柱とかオブジェなんかではなく、きちんとした意味を持った石碑。
お墓……?
それか慰霊碑か何かかもしれない……。
七都は巨大な石碑の全体を眺め、それから周囲を見渡す。何かヒントになるものが、そのへんに落ちているかもしれないと期待して。
けれども、もちろん視界には、白い砂と明るい色に変わりつつある空しか見えなかった。
ずっと昔ここで何かがあって、多くの魔神族が亡くなって、これはそれを弔うために建てられた石碑……。
戦争とか、事故とか?
そうなのかもしれない。
たくさんの、たくさんの、魔神族の名前。
かつては確かに生きて存在した人々。
男性であったかもしれない。女性かも。子供だったかもしれないし、老人だったかもしれない。
その人たちが存在したという証しが、今は石の表面に刻まれた記号だけになって、砂漠の真ん中にひっそりと残っている……。
七都は、もう一度その名前たちをそっと撫で、そこを通り過ぎる。
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