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やがて太陽が、砂漠を歩く七都を照らし始めた。
七都は昇って行く太陽に向かって、手を広げてみる。
なんて心地のいい光なのだろう。
この領域の外での真夜中の月のように。そして、元の世界の春の日の午後の太陽のように。それは七都をあたたかく包み込む。
突き刺すような暑さや不快感も、全く感じない。
七都は、砂の上に寝転んだ。
いい気持ちだ。
誰もいない砂漠に寝転ぶ贅沢。その日初めて姿を現す太陽の、朝の新しい光を浴びながら。
ここではフードで顔を隠す必要もない。このまま思う存分、昼寝だって出来る。
空は、ラベンダー色に変化していた。
七都の家の玄関で、涼やかな香りを放つハーブの花と同じ色だ。
七都は、その天の色の中に、両手を伸ばした。
この色、果林さんの好きな色だ。
七都は、ふと懐かしく思い出す。
果林さんが持っている服は、セーターもコートもカットソーも、ラベンダー色のものが多い。
華奢な雰囲気の果林さんには、よく似合う色だった。
<えー、またその色の服、買ってきたの?>
七都があきれて言うと、果林さんは恥ずかしそうに微笑んだ。
<だって、この色好きなんだもの>
……あの日常に、また戻れるかな。遠い夢の中のように思える日常。
でも、私の戻る場所はあそこなのだ。
七都は、目を閉じた。
砂が、さらさらと耳元を流れて行く。
このまましばらく眠ろうか。
門を抜けてずっと歩いてきたし、その前のキディアスのことにしても、グリアモスの女の人のことにしても、随分疲れてる。肉体的にも精神的にも。
深い傷を抱えたこの体は、どんな些細なことにでも、たちまち疲れ果ててしまう。
少しだけ眠ろう。ほんのちょっとだけ……。
そう思った途端、全身から力が抜け、けだるい眠気が体を包み込んで行く。
浅い眠りの中で、七都は誰かの声を聞いた。
(ナナト。ナナト……。やっと来たね……)
(誰……?)
(あなたが来るのをずっと待っていたの……)
(誰……。あなたは……?)
(会いたかった。とても会いたかった……)
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