第1章 砂の中の猫

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 七都は焦りながら、猫ロボットに触れないよう、その間を通り抜け、輪の外に這い出た。  七都が出てしまっても、ロボットたちは相変わらず同じ角度で傾いたままだった。半透明の虹色の無表情な目が、何もない輪の中心を見つめている。不気味なくらいに動かない。  何なの、これ……。  見た目かわいいけど、怖い。  七都は、ロボットたちを横目で見ながら、立ち上がる。  猫ロボットたちは七都を振り返ったり、見上げようともせず、そのまま静かに砂の上で輪を作っていた。  砂を含んだ風が、ロボットたちの足元をさらさらと流れて行く。  ロボットたちの体の磨かれた銀色と頭に映った空のラベンダー色が、白い砂を背景にして場違いなほど美しかった。 (これなの? カーラジルトが見た『妙なもの』って……)  どこから来たのだろう? 見渡す限り砂漠なのに。  まるで何もない空間から、ひょっこり湧いて出たかのようだ。  けれども、この猫たちは機械なのだから、もちろんこれをつくった人物がいる。  七都に、このロボットたちを接触させてきた誰かがいる。それは確かだ。 「でも、無視すればいいって、カーラジルトは言ってたものね。そうすれば何も起こらないって。これがエルフルドのちょっかいなのかどうかわからないけど、ゼフィーアも無視するようにって言ってたし。とにかく、スルーだ」  七都は、髪と服についていた砂を丁寧に払った。  そして、何事もなかったかのように、歩き始める。  七都がそこを後にしても、猫ロボットたちが追いかけてくる気配は、全くなかった。  しばらく歩いたところで、七都は後ろを振り返ってみる。  ぞくっと、背筋を冷たいものが流れた。  猫ロボットで出来た輪は、忽然と消え失せていた。  それがあったはずのところには、他のすべての景色と同じ、なめらかな白い砂の平面しかなかった。  七都は、流れる砂が薄い膜のように覆う地表をただ眺めた。  夢……?  お母さんの気配とか声とか手の感触とか……それから今の猫ロボットまで?  私がこの砂漠の中で作り上げた、単なる夢?  やっぱり全部、夢か幻……?  やがて、ロボットたちがいたはずの場所は、砂漠の光景の中に埋もれ、もう他とも区別がつかなくなってしまう。  どこを向いても同じ砂の風景。同じような丘。同じような傾斜。  それも刻一刻、ゆっくりと形を変えていく。  ナビがなかったら、混乱して完璧に迷ってしまいそうだ。  七都はナビをお守りのように握りしめ、再び歩き出す。  少し眠ったので体の調子はましだったが、変な夢を見てしまったことが七都の気分を重くする。  やっぱり、緊張してるのかな。  何せ、ここは魔の領域なんだもの。  事前に仕入れた先入観も、しっかり持ってるわけだし。  だが、夢にしてはリアルだった。  母にしても、猫ロボットにしても……。  十分くらい歩いたところで、七都は思わず立ち止まる。 「夢じゃない……!!」  目の前にいきなり現れたものを見て、七都は呟いた。  そこには、あの猫ロボットたちがいた。  砂の丘の上に、等間隔で一列に並んでいる。  ざっと見たところ、十数匹……。もちろん全部同じ、例の銀色の猫ロボットだ。 (あそこには、さっきまで何もなかったのに……)
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