狙うは下克上

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狙うは下克上

ーーー「いやー、パン戦争に勝利したぜ、ははっ」 「やっぱ、購買のパンは定番だよな!」 校庭の隅の日陰で、三人組のパンチパーマとモヒカンとアフロの男子生徒がうんこ座りで購買のパンを開けていた。 パンの入った袋に手を突っ込む。 「ん?」 「どした?」 「パンがねぇ」 「は?んな訳、あれ?俺のも」 サッ、サッ、シュッバッ 三人組の間を俊敏な黒い影が縫っていく。 「って、誰だてめぇ!」 ガッ! パンチパーマの男子が影の首根っこを掴んだ。 「苦しい、離してくだせぇ」 「何、人の昼飯をドロボーしてんだよっ」 「覚悟できてんのか、ああ?!」 盗んだパンを抱えた鈴木は子猫のように首根っこを掴まれたまま目線を合わさせられる。 「見逃してくだせぇ」 「ふざけんな、どんな理由か知らねーがぶん殴」 パンチパーマが拳を引いた瞬間、鈴木の顔がキリッと変わった。目は死んでるが。 「購買のおばちゃんに、惚れてるんです」 「?!なっ」 パンチパーマとモヒカンとアフロがどよめきたつ。 「おばちゃんの事を想うと、夜も眠れねーで、でも、俺なんて子供をおばちゃんは相手にしてくれねーし。だから、せめておばちゃんの作ったパンだけでも!おばちゃんの温もりを感じさせてくだせぇ!」 鈴木の予想外の告白にパンチパーマは驚愕のあまり手を離す。 ぼてっ。と間抜けな音ともに地面に解放された鈴木は。 「おばちゃんを、愛してるんだ」 死んだ目で訴える。 鈴木のあまりに突拍子もない告白に三人組は、 「な、なんてやつだ!!あのおばちゃんを愛してるなんてっ」 「ああ。あの巨漢でチリチリパーマのおばちゃんを」 「パン戦争の時はスーパーサイヤ人にさえ見えるおばちゃんを!」 膝から崩れ落ちた。 「もってきな!」 すっ、と、モヒカンが残りのパンが入ったビニール袋を差し出した。 「いいんですか」 真面目な顔で鈴木は、しかし返答を待たず俊敏にビニールを奪う。 「ああ。お前の男気に、折れたぜ」 「届くといいな、お前の気持ち」 「せめて、おばちゃんの作ったパンを胸に抱いてな」 パンは工場で作られたもので、おばちゃんはただ購買で売ってるだけだ。 「ありがとーございます」 鈴木は一礼して走っていく。 「おばちゃんの温もり感じな!冬でも肉布団でぬくぬくだぜー!」 三人組は手を振って鈴木の背中を見送った。 ふっ、ちょろいもんだぜ。 鈴木が心の中でほくそ笑みながら佐藤の待っている場所に走っていく。 ーーぼとっ。ぐしゃっ。 「あ」 足は二本揃えて綺麗に止まる。 その下には、かわいそうな形をした焼きそばパンとコロッケパンーーーー。 一本ずつゆっくりと足を退ける。屈んでパンに手を伸ばす。 ぎゅっぎゅっ、ぐしゃぐしゃ。 「…よし」 鈴木はビニール袋に、落としたパンを戻し再び走ったーーーー。 「おせぇ!!」 「パンを手に入れてきやした」 仁王立ちで待っている佐藤の元に鈴木がビニール袋を差し出した。それを佐藤が奪い取る。 持ち手をバッと開いた。 「なんなんだこれはよぉ?!なめてんのか、おめーはよぉ!!!」 ばれたか。 ビニールには歪に中身が出てしまった焼きそばパンとコロッケパン。形を手で調整したが気休めにしかなっていない。 鈴木が何て言い訳しようか考えると、 「クリームパンとメロンパンがねぇーじゃねーかよぉ!!!」 …ちっ、甘党か。 踏まれたパンではなく、好みの話しだった。 「すみません、コロッケパンも意外と甘いですよ」 「そーなのか?!」 鈴木の言葉を鵜呑みにした佐藤は潰れたコロッケパンを口に運ぶ。潰れている事に関しては気づいてないらしい。 「言われてみれば、確かに…、オレはコロッケパンを見直したぜっ。しかもこの形、斬新だな。新発売なのか?」 「そーみたいです」 ただのバカだった。 佐藤はばくばくとビニールに入ったパンを平らげていく。 ふん、バカが。だが、自分はこいつのバカを利用して、乗し上がってやる。 鈴木の中で静かな灯火がちらちらと揺れていたーーーー。 「取り敢えず、お前、一発殴るぞ」 「え?」 ごんっっっ。 鈴木の灯火、消火。
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