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 切なく掠れる、苦しそうな声。すごく良いと思うんだけど。  目線を上げて、龍樹を見る。 「どう?」  龍樹は腕を組んで、俺を睨む。 「いい」 「良くない」 「どこが」 「わかるだろ」 「わからん」  昨日からもう何回目だ、このやり取り。エンジニアさんも呆れてそっぽ向いてコーヒー飲んでる。  すいません、ほんとに。 「だからさぁ、何て言うか…ほら、わかるだろ?」 「言語化しろ。わからん」 「こう、ニュアンスじゃん、こんなの」 「それをどうにか伝えろ。俺はこのテイクでいいと思う」 「僕は良くないと思う」 「だから、どこがだ」 「うーん…」  歯ぎしりをして唸る。歌詞書くくせに、こういうことを伝えるのは下手なんだよな。 「……だから、僕を殺して、のところが…」 「ところが?」 「…何か違う」 「違うと思うなら、合ってると思うので歌えよ」 「正解がわかったら、とっとと歌ってる!」  だよな?  何でこんなにごちゃごちゃ言ってるかって言うとだ。 「わかんないから、お前も考えろ!」  何故これしきのことで、こんな細かい喧嘩をしなきゃなんねぇんだよ。  喧嘩はコミュニケーションだとか、喧嘩するほど仲がいいとか、そういうのは望んでねぇんだよな。お互い、避けられるなら避けたいと思ってるよ。もういい年なんだし。  でもどうしてか、すぐにこうなるんだ。 「考えるけど、どうしたいのかがわからん」 「どうしたいのかを考えてよ」  俺的にはOKテイクだから、そう言われてもなぁ。これで良いとしか言えない。  腕を組んで、一応考える。 「…辛い、苦しい、の他にキーワードが欲しい」 「他にか」  こいつの表現力は俺以上だと思ってるから、俺よりこいつの方が絶対にそういうことは出て来そうなんだけど。  歌詞書いたのだってお前じゃねぇか。
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