19-7

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「玲次、ウェットティッシュ出して」  俺は一枚引っ張り出して渡してやる。 「もう一枚」 「はいはい」  もう一枚取って、口元を拭いてやる。 「ありがと」  それも渡してやると、手を拭いた。 「手は食ってからでよかったんじゃねぇか?」 「あ、そうか」  笑ってウェットティッシュを置くと、続きを食べ始めた。 「でも、ほんとどうしたんだよ」 「何が」 「これ」  テーブルの上をぐるっと指すと、俺の顔を見て首を傾げる。 「興味ないくせに」  長年の積み重ねだよなぁ、これ。完全に興味ないと思われてるし、否定もしきれない。クリスマスに興味があるわけじゃなくて、こいつを喜ばせたいだけだから。 「お前は好きだろ?」 「まあね。でもびっくりした」 「あれ、いらなかったか」  龍樹は思いっきり首を振る。 「いる。楽しい」  ライブの後の笑顔もすごく良いけど、この屈託のない笑顔も最高だ。この顔がこんなに簡単に見られるんなら、もっと早くやってやれば良かった。 「そんなら良かった」 「でも今日迎えに来てくれてよかった。同じ物買って帰るとこだった」 「だよな」  毎年、龍樹は特に註釈なくチキンとケーキを買って来て、クリスマスとは一言も言わずにテーブルに並べてた。こっちで初めてのクリスマスの時にクリスマスだから、って言われた俺が「くだらねぇ」って言い捨てて喧嘩になったのがきっかけだ。出された物は食事とデザートの一環として普通に食べるから、「クリスマス」の一言を言わない、っていうのがこいつの考えた唯一の妥協策だった。誕生日も同じだ。  それくらい言わせてやれば良かったし、減るもんじゃないから乗ってやれば良かったのにな。  若かった俺は、ほんとにどうしようもないヤツだった。 「珍しいなぁ」  チキンを食べ終わって、手を拭きながらそう言う。 「そんなにつくづく言わなくてもいいだろ」  俺が言うと、こいつはくすくす笑う。 「お前からクリスマスやり出したのもびっくりしてるけどさ、お前のサプライズが失敗してないのが珍しいよね」 「ん!?」  どういうことだ。ちょっとしたサプライズくらいは今までもいくつかやってると思うけど、あれ、失敗してたのか!?
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