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19-9
「やる。誕生日もやる」
「頭打った?」
真顔でそんなこと聞くな。
「打ってねぇし」
同時に吹き出す。頭打たないと出来ないレベルか、これが。20年以上の何もやらないって実績はヤバいな。
「他に何か記念日やるつもり?」
「後は…何かあるか?」
「そうだな…例えば…出会った日とか?」
和馬さんはそれもやるって言ってたな。
「…やってもいいけど…」
俺があいつを見付けた日なのか、初めて挨拶した日なのか、崇純さんに引き合わせてもらった日なのか、どれだ。
しかも、どれ一つとして日付を覚えてない。
「大丈夫、僕も覚えてない」
覚えてないのもお見通しか。
「あとはまあ、付き合い始めた日とか」
「……」
どれが付き合い始めた日だ。初めてキスしたのはこいつの誕生日だってことは覚えてるけど。
「どこになるんだろう。ま、そんな細かいのはいいか!」
良かった。この日だろ! って断言されたら、すみませんしか言えないところだった。
「じゃ、今度からは安心してプレゼントとか用意しようかな。いい?」
「ああ」
やっぱり、そんなふうに過ごしたかったんだな。今までの27年間俺の勝手に付き合わせたんだから、何十年になるかわからないけど、これからはこいつの好きなように過ごそう。
頬にキスをすると、俺と目を合わせて目を閉じる。
まだ飯の途中だけどな。
唇を重ねると、手探りで俺の手を握ってくれる。指を絡ませて、長いキスをする。
「龍樹」
「ん?」
両腕でしっかりと抱きしめる。あと何十年だろうが、離さない。今までも、これからも、こんなに大事な人はいないから。
この気分は、イベントの特別感に取り込まれてんのかな。でも、それも悪くない。
心の中に溜め込んでいたこの言葉が、自然に口から溢れ出す。
「好きだ」
「…えっ」
龍樹、えっ、って。ここでそのリアクションなのか。
「…聞こえないなぁ」
「は?」
「声が小さい」
何なんだ。学校の先生か。
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