19-9

1/1
前へ
/114ページ
次へ

19-9

「やる。誕生日もやる」 「頭打った?」  真顔でそんなこと聞くな。 「打ってねぇし」  同時に吹き出す。頭打たないと出来ないレベルか、これが。20年以上の何もやらないって実績はヤバいな。 「他に何か記念日やるつもり?」 「後は…何かあるか?」 「そうだな…例えば…出会った日とか?」  和馬さんはそれもやるって言ってたな。 「…やってもいいけど…」  俺があいつを見付けた日なのか、初めて挨拶した日なのか、崇純さんに引き合わせてもらった日なのか、どれだ。  しかも、どれ一つとして日付を覚えてない。 「大丈夫、僕も覚えてない」  覚えてないのもお見通しか。 「あとはまあ、付き合い始めた日とか」 「……」  どれが付き合い始めた日だ。初めてキスしたのはこいつの誕生日だってことは覚えてるけど。 「どこになるんだろう。ま、そんな細かいのはいいか!」  良かった。この日だろ! って断言されたら、すみませんしか言えないところだった。 「じゃ、今度からは安心してプレゼントとか用意しようかな。いい?」 「ああ」  やっぱり、そんなふうに過ごしたかったんだな。今までの27年間俺の勝手に付き合わせたんだから、何十年になるかわからないけど、これからはこいつの好きなように過ごそう。  頬にキスをすると、俺と目を合わせて目を閉じる。  まだ飯の途中だけどな。  唇を重ねると、手探りで俺の手を握ってくれる。指を絡ませて、長いキスをする。 「龍樹」 「ん?」  両腕でしっかりと抱きしめる。あと何十年だろうが、離さない。今までも、これからも、こんなに大事な人はいないから。  この気分は、イベントの特別感に取り込まれてんのかな。でも、それも悪くない。  心の中に溜め込んでいたこの言葉が、自然に口から溢れ出す。 「好きだ」 「…えっ」  龍樹、えっ、って。ここでそのリアクションなのか。 「…聞こえないなぁ」 「は?」 「声が小さい」  何なんだ。学校の先生か。
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加