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2-1
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自宅近くの深夜までやってるドラッグストアに寄って、トイレットペーパー18ロールを買って帰る。
「ただいま」
部屋の中に声をかけると、リビングから「おかえり」の声が聞こえた。龍樹は挨拶にはうるさい。一緒に住み始めた頃に適当な返事をしてたら、そりゃもう怒られた。
もう0時になるけど起きてたな。
普段は0時前には寝るんだけど、今回のレコーディングが始まってからこっち、俺が帰るまで起きてる。どうだったのかを聞きたいって言って。
龍樹こそが、新ユニット「コキーユサンジャック」のヴォーカリストだからだ。
本職は普通の会社員だから、平日のレコーディングには立ち会えない。だから、こうやってディレクションして来た俺の話を聞いて、土日にスタジオに来て立ち会ってる。
俺も休みなしだけど、こいつも休みなしだ。
結成を持ちかけたのは俺だから、俺に責任はあるんだけど、ちょっと心配だ。
「ほれ、トイレットペーパー」
リビングを覗くと、コーラを飲みながらテレビを見てる。声をかけた俺をちょっとだけ振り返る。
「トイレに置いといてよ」
「へい」
ですよね。そうだと思いました。
俺は大人しくトイレにトイレットペーパーを持って行き、外袋を破ってストックに詰め込む。
キッチンで缶ビールをピックアップして、テレビを眺めてる龍樹の隣に座る。もう風呂は終わったみたいでシャンプーのいい匂いがする。
俺がもう45のおっさんなんだから、こいつも44のおっさんなのはわかってるんだけど、初めて会った時と変わんねぇな。可愛い。なんて思ってんのは俺だけか。龍樹は俺を「すっかりおっさんになったな」って思ってるかもしれない。
ビールを呑みながら肩を抱き寄せると、俺の方に顔を向けてくれる。
「おつかれ」
「おう」
返事をして、軽くキスをする。
俺らの仲は、基本ここまで。ディープキスは嫌いらしくて、我慢はしてくれるけどあんまりいい顔はしない。
唇を離すと、またふいっとテレビの方に目をやった。俺も何気なくテレビを見る。
画面に映ってるのは、キラキラしたイルミネーションに、サンタに、ケーキ。
季節はずれだな。確かに今日クリスマスの話はしてたけど、まだそんな時期じゃないだろ。
画面隅のテロップを読んでみる。「今ならまだ間に合う! スペシャルなクリスマス」…は? まだ間に合うって何だよ。そろそろ遅いみたいな表現だな。
映し出されているのは、豪華そうな船。
「東京湾クルーズねぇ…」
龍樹がぽつりと呟く。
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