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2-3
あいつはステージで即興でアレンジしても相当良いものを弾くんだけど、レコーディングになるととことんこだわりが強い。他の2人のゲストギタリストのレコーディングは2日間だけど、芳之だけは3日間だ。依頼したUnder the moonがかなり気に入ったらしくて、デモを聴いた翌日に3日欲しいって言ってきた。あいつが弾くなら相当なクオリティに仕上がるのは間違いないから、それはそれでありがたい。
「どれくらい進んだ?」
「7割くらい。明日はギターソロがメイン」
「そっか。楽しみだなぁ」
龍樹は芳之のあのキャラが苦手らしくて、顔を合わせるとずっと苦笑いしてるけど、芳之は龍樹に懐いててやたらと絡みに行く。見てると結構面白い。
でも、芳之のギターの腕は正当に評価してるから、ゲストギタリストを誰に依頼するか話し合った時には見事に意見が一致した。
「土曜日は行けるから、聴けるか。土曜日は何するの?」
「もう一本重ねたいって言ってたから、それになるかな」
「立ち会いたいけど、僕も始まるから無理か」
ちょうどその日から、並行してヴォーカル録りが始まる。
やっと、こいつの歌と俺のギターが正式にレコーディングされるんだ。25年越しでこの時を待ってた。
10代の頃に一緒にルージュレイズってバンドをやってたけど、その頃にしたレコーディングはきちんとしたものじゃなかったし、デモテープでしかなかった。でも、今回はきちんとしたレコーディングで、CDがリリースできる。配信だってある。MVも作る。
俺はどうしても、こいつの歌が欲しくてここまで待ってた。俺の曲で歌って欲しくて俺のソロの仮歌は必要もないのに依頼してたし、こいつのアコースティック活動に曲も提供して来た。
でも、これは明確に俺とこいつのユニットなんだ。楽しみでしかない。
「合間に覗きに行きゃいいだろ」
「だね。ディレクションはどうすんの」
「芳之の方はサキさんに任せるよ。俺は基本的には、お前の方のディレクションするから」
「おっけ。よろしく」
芳之とはもう5年半も一緒に活動してるから、実力はわかってる。好きにやらせておいて間違いはない。ジャックのプロデューサーを直々に担当してくれたサキさんも来てくれるから、サキさんのディレクションで大丈夫だ。
クリスマス特集が終わったテレビを消して、龍樹は立ち上がる。
「じゃ、僕先に寝るね。呑んでないで、早く風呂入れよ」
「はいよ」
「おやすみ」
俺の顔を覗き込んだ龍樹の顔に手を伸ばして、おやすみのキス。今でも最低限、おはようとおやすみのキスは欠かさない。単純に、長年の習慣になってるからってのもある。
なので、大した感慨もないようで。
龍樹はすいっとベッドルームに入って行った。
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