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どう考えても、予算オーバーだった。
長峰篤宏はスマフォの画面に打ち込んだ文字列を睨み付けて、大きなため息を一つ。何度、電卓アプリで計算しても、現れる数値に変わりなかった。
写真部のアツヒロは、秋の写真コンクールのための策を練っていた。撮影プランの多角的な検討はもちろん、夏休みには出来る限りバイトに精を出し、軍資金を稼いだ。しかしいざ必要な予算を計上してみると、明らかに、いや盛大に財布の中身では足りなかったのだ。
「うーん」
低く一度唸ってから、アツヒロはリストの優先順位を確かめた。やはり一番重要なのが被写体であることを考えると、撮影時の交通費や必要経費は削れない。替えのレンズは冬休みのバイト後まで我慢しなければならないだろう。
もう一度、アツヒロはため息を吐いた。
無論、いい写真を撮るために重要なのは、センスと努力と根気と好機であって、機材の善し悪しはまた別だ。ただ自分のセンスに明確な自信があるわけではないアツヒロにとって、やはり機材のスペックは重要だった。しかし、ない袖は振れぬ。機材のバージョンアップ以外でも出来る工夫はないか?
と頼みの綱の父親に縋ったところ、まったく予想外のアドバイスが返ってきた。
「フィルムとかどうだ? 味が出るかも知れないぞ」
は? とアツヒロは瞬きをいくつか。
「フィルムって、あれ、銀塩… のやつ? まだふつーに売ってんの?」
「…そうか、お前だと”写ルンです”とかも知らないんだよな」
そう呟く父親は、心なしか少し老けたような気がしたが、それでも彼は少しはにかんだように笑って、こう言った。
「いいもんだぞ、フィルム。なんせやり直しが利かない」
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