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しかし、やがて決断の時は容赦なくやってきた。
ある日の事だ。遅くとも真昼には訪れていたエリィが、いつまで経っても姿を見せなかった。
ディアがやきもきしていると、夕暮れ時になってようやく彼女は彼の元にやってきた。息を弾ませ、頬を紅潮させながらエリィは開口一番こう言った。
「遅くなってごめんなさい。私の一生に関わる事が起こっていたの。ビッグニュースよ! 私の目が治るの!」
聞くと、エリィの両親がずっと打診をしていた海外の名医から手術の了承を得たらしい。名医はエリィと同じ目の病の患者を幾人も救っているそうだ。
ああ、とディアは空を仰ぎ見た。
別れの時だ。
「それは良かった、エリィ。本当に良かった。オイラ、とても嬉しい。だけど、これでお別れだ」
ディアの唐突な発言にエリィは驚いた。「どうして」と狼狽える彼女にディアはすらすらと言う。
「オイラ、とても嬉しい。それは間違いなく真実だ。だけど同時に怖い。こんな恐怖、初めてだ。キミといると初めての事ばかりだ」
「落ち着いてディア。何が怖いというの」
「目の治ったキミが、化け物のオイラを見て恐怖する様を目の当たりにするのが怖いんだ。想像するだけで胸が張り裂けそうになる」
ディアの言葉にエリィは憤慨した。「まあ、侮辱だわ」と物見えぬ目を吊り上げる。
「見損なわないでディア、貴方が私を決めつけないで。貴方は私と同じ人間じゃないの。私が貴方を恐れるなど、どうして分かるの」
「分かりはしないさ。うん、そうだな。キミが恐れるか恐れないかは確率の問題だな。だけどオイラ、それに賭ける勇気は無いんだ。万一キミに拒絶されたら、オイラ生きていけない」
「私を信じてくれないの。そんなの弱虫だわ、貴方らしくないわ」
「ああ、弱虫ディアだ。オイラ、化け物のくせにこんなに弱くなっちまった。キミの事が大好きだから、キミを信じきれない。キミに嫌われるのが何よりも恐ろしい」
頭に血が上っていたエリィはようやくハッとした。かあっと顔を赤くして口許に手を当てる。「ディア、貴方まさか」と彼女は震える声で言ったが、構わずディアは荷を担いだ。
「じゃあね、エリィ。キミの幸運をオイラ、いつでも願っている」
「待って、ディア! 私は目が治ったら貴方を探そうと思うの。きっと、貴方を見付ける旅に出るわ!」
背を向けて歩き出すディアに、エリィは叫んだ。
「見付からないと思ったら大間違いよ! 貴方のダイヤモンドは唯一無二のものだもの、私にはきっと分かるわ。貴方は私の光よ。貴方を探し出して、私は貴方に笑いかけてこう言うわ。『やっと貴方のお顔と会えたわ。とっても嬉しい』って」
ディアは堪らず走った。「きっとよ!」とエリィの離れていく泣く声に、彼もまた涙を溢した。
それはダイヤモンドのように、いつまでも美しい輝きを放っていた。
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