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プロローグ
「俺……前から好きな人がいるんだ!」
「私……昔から好きな人がいるんです!」
多くの学生達にとって待ち遠しく、そして幸せな一時である長期休み
その長期休みの中の一つ、春休みが終了を目前にしている三月末。
二人の男女が同日に同様の相談をするため、俺の……真良湊しんらみなとの部屋に駆け込んできた。
「……それで?」
明日やろう、いや明後日にしようと結局最後まで残してしまった課題を、どこぞの陸上選手さながら追い込みをかけていた腕を一旦止めると、そう問いかける。
「だから手伝ってほしいんだ!」
「だから助言を頂きたいです!」
「……なるほどな」
ゆっくりと一つ息を吐き、今一度対面して座る人物に顔を向けた。
そこに座るのは美男美女。
美男は茶色で明るみのある髪に、女子が好みそうな爽やかな面構え。それに180cmは超えているであろう高い身長にスラリと細い体つきをしている。
まるで、物語に出てくる王子様のような奴。
そしてもう一人、美少女と言っても過言ではない彼女は、腰まで伸びた黒く艶やかな髪に整った目鼻立ちと雪のように白い肌。
育ちの良さがにじみ出る立ち振る舞いはまさに高嶺の花。
そんな二人、荻原優斗おぎわらゆうとと神崎雫かんざきしずくが先ほども述べたように、同日、時刻は違うが同様の相談をするために俺の部屋へ訪れた。
こんなもの、誰が聞いてもお互いのことを相談するために来ているとしか思えない言葉の後に、二人はこう続けた。
「こんなこと頼めるのお前しかいないんだ!」
「こんなこと頼めるの湊くんだけなんです!」
夕日の差し込む部屋と、月明かりに照らされる部屋。
そんな部屋で打ち明けられた友人と幼馴染の気持ちと切実な願い。
返答を真剣な眼差しで待つ二人に、俺は意を決したように椅子から立ち上がり……
「絶対に嫌だ。そんな面倒なこと俺に話してくるな。自分たちで解決してくれ」……と告げた。
優斗はあらかじめ予想していたように肩をすくめ、雫はあからさまに落ち込んだ様子で部屋を後にした。
二人とは少なからず付き合いが長い。
だから今回だけで終わるはずがないのは理解している。
「面倒な一年になりそうだ……」
一人になった部屋で俺は、目の前に迫っている新学期が憂鬱になることを予感した。
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