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学力テスト 7
『今日から明日の朝までは暴風と大雨が続くでしょう』
天気予報のお姉さんが、大きな液晶に表示された全国の天気情報を淡々と視聴者へ伝える。
残念ながら俺たちの住む街は、暴風域に入り明日の朝までこの雨が続くらしい。
「これでは家に帰るのは難しそうね」
綺羅坂がテレビを見ながらそう呟く。
彼女は、今朝家に来た時には持っていなかったはずのカバンをどこからか取り出すと、中から着替えや洗面用具などが次々と出てくる。
「……なにその荷物は、そんなもの持ってなかっただろ」
「玄関に置かせてもらっていたのよ、こんなこともあろうかと準備だけ済ませてきたの」
全ての荷物を一度床に並べ、忘れ物がないか確認をする綺羅坂。
すると彼女は「あっ」と、小さく声を漏らすと、立ち上がりリビングから出ていく。
廊下を歩く音が数秒で扉を開く音に変わる。おそらく俺の部屋に入ったのだろう。
数分でリビングに戻ってきた綺羅坂は、見覚えのあるジャージを抱えていた。
というか、俺が普段寝間着に使っているジャージだ。
「寝間着を忘れたわ」
「……いやお前車だろ、帰れよ」
「……確か車検に出すって言ってたわ」
嘘だと丸分かりな言葉に、俺だけでなく妹の楓まで冷たい目で見ていると、彼女は気まずそうに目を逸らす。
雫なんか俺達兄妹よりも冷たい視線を彼女に浴びせている。
「というわけだから、今日はお世話になるわ」
どういうわけか、勝手に泊まり込むことを決定する綺羅坂に、午後からも大変な一日になることを覚悟した。
「……雨には人をリラックスさせる効果があるらしい」
「いきなりどうしたの湊君?」
部屋に戻り勉強を再開してから一時間ほど経過したとき、俺は部屋の窓から外を見渡しながら、前にテレビで放送されていた雨についての番組を思い出した。
「雨の音って人を癒す効果があるらしい、理由は知らないけど」
「ほぇー、知らなかった」
……ほぇー?
16年間生きてきて初めて聞く驚き方に、自分から話を始めたのに話す内容がすっかり頭の中から抜け落ちてしまった。
そんな俺の代わりに、綺羅坂がその理由を説明する。
「私も詳しくは知らないけれど、規則的に聞こえていても実は不規則な音……人の心臓などと同じで、人は聞いていて癒されたり安心感があるらしいわよ……本当かは知らないけど」
流石は学年一位
雑学においても、俺達よりも物知りだった。
「そんな理由があるんだね!綺羅坂さんは博識だな!」
「あなたに褒められても微塵も嬉しくないわね」
だが、変わらず優斗には厳しい綺羅坂は、褒められたのに機嫌が悪くなる。
優斗がここまで嫌われるのも珍しい。
俺の知る限りでは、綺羅坂以外では優斗を嫌ったり、悪く言う人はいない……と思っていると、その横からも追加攻撃が飛んできた。
「でも、確かに荻原君は女性をすぐ褒めるので、軽い人に見えてしまう時がありますよね?」
「……そ、そうかな、お、俺は結構一途な男なんだけど……」
「そうなんですか?意外ですね……」
雫の悪意のない正直な言葉。
よりによって、思いを寄せる相手に言われたことで、優斗は珍しく一気に表情を暗くさせた。
「まぁ気にすんなよ……ふっ」
「そうよ、軽い男に見えているあなたにも良いところはあるはずよ……ふふっ」
笑いを堪え、俺と綺羅坂は優斗の肩に手を置き、慰めという名の追い打ちをかけた。
月曜に行われる数学を集中して勉強をしているうちに、いつの間にか日は暮れて外は真っ暗になっていた。
部屋の窓から見た外の天気は、昼よりも悪化しているように見える
傘を差していてもびしょ濡れになるのは間違いないだろう。
ひとまず勉強はここまでにして、俺達はこの後どうするかを真剣に話し合うことにした。
「私はここに泊まるから何も問題はないわ」
すでに私服から俺のジャージに着替えている綺羅坂は、冗談ではなく本当に泊まる気で妹にも了承を得ていた。
おいしいお肉を頂いたから、今日は泊めてあげることにしたと、楓は言っていた。
「俺は明日の朝から予定があるから帰るよ、姉さんが迎えに来てくれるから大丈夫だ」
「私も家は目の前だし、帰ることにします……ただ綺羅坂さんはリビングで寝てくださいね」
優斗はすでに荷物をまとめてあり、俺は玄関に置いてある傘を一つ渡す。
優斗は傘を受け取ると「じゃあな」と手早く外に出て、少し先に止めてある車まで走っていった。
「じゃあ湊君、今日はお邪魔しました」
「目の前だけど、家に入るまでに濡れるだろうから風邪ひくなよ」
雫の家は、道路を挟み向かいの家。
本当に目の前に住んでいるが、ここまで雨が強いとかなり濡れるだろう。
「分かってます、それではまた学校で」
雫が玄関に手をかけ、外に出る寸前で誰かのスマホから着信を知らせる音が鳴る。
「あ、私です」
着信があったのは雫のスマホで、彼女はポケットからスマホを取り出すと通話ボタンを押し、電話に出る。
「どうしたのお母さん……今は湊君の家にいるけど……え?うん、わかった」
雫はスマホを耳から離し、通話終了の赤色のボタンを押してから、再びポケットにスマホをしまうと、振り返り自分の荷物を俺に渡してきた。
「私も今日お泊りさせてもらいます!」
満面の笑みでそう告げる雫。
もう一度靴を脱ぎ、家に上がる雫に後ろからは舌打ちが聞こえた気がした。
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