理由 4

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理由 4

 結局、山田のなんちゃってダイビングヘッドが決勝点となり、男子サッカーは三組の優勝で幕を閉じた。  結果的に、今回の球技大会では三組が出場した球技の中で、女子バスケットと男子サッカーが優勝という非常に優秀な成績となった。  他の生徒が参加した卓球やテニスなどの個人種目では、目立った成績を残すことはできなかったらしい。  サッカーの決勝戦の後、すぐに校庭で全種目の表彰式が行われ、女子バスケットの代表は雫が、サッカーの代表は優斗がそれぞれ学長から表彰状と景品を受け取っていた。  俺は二人の姿を、クラスの列の最後尾で眺め、優斗の人気は屋上から見ていてわかりきっていたことだが、雫にも多くのファンがいるのを再確認した。 「優勝の景品って何かしら?」  そういえば、先ほど渡したままだった俺のスマホと、自分のスマホに目を行き来させながら、何かを打ち込んでいる綺羅坂はたいして興味もなさそうに聞いて来る。 「去年は学食が一週間無料券だったけど、今年は何だろうな」 「私お昼はお弁当だから違うものがいいわ」  入力を終えたのか、差し出された俺のスマホを手に取ると、そのままポケットに入れる。  綺羅坂も自分のをポケットにしまったのだが、最後に画面を見てニヤついていた。  それが、何かを見てニヤついていたのか確認することは俺の立ち位置からは難しかった。  確かに、いつも隣の席で弁当を食べていた気がする。  弁当箱は普通なのに、中身が豪華で最初は驚いたもんだ。 『以上で本日の球技大会は終了とします。生徒の皆さんは体のケアを忘れず行うようにしてください』    最後に生徒会長が閉会の挨拶をして、生徒たちは校庭から解散していく。  結局、景品の中身は表彰式では発表されず、クラスで二人に聞くしかないようだ。  俺もその流れに身を任せ、教室に戻る。  この学校は女子生徒には更衣室が設けられているので、女子は男子とは反対方向に進む。  教室で、男女ともに着替えるなんて小学生の時くらいだ。    教室へ向かう生徒達は、楽しそうに会話をしながら歩いているが、その中で誰よりも大声で話をしている生徒が一名……というか山田だ。 「俺のダイビングヘッドのおかげで優勝できたからな!荻原よりも目立っちまったから女子が放っておかないかもな!」  なんと頭がお花畑なのだろう。  この場に女子がいなかったのは幸いだろう。  いくら学園一の馬鹿キャラでも、色恋沙汰で学園の王子を相手にするのは分が悪い。  生徒達に愛されていると言っても、優斗とは意味がまるで違う。  今の言葉を優斗の取り巻きが聞いていたら「調子に乗るな」と、冷たい声音と視線を山田に浴びせていただろう。  その後も教室に着くまでの間、一度も口を閉じることなく話し続ける山田に、周りも少しうんざりしながらも、一応優勝の立役者でもあるため付き合ってあげている。  普段は雫や優斗に群がっているのに、普通にこいつらも会話できるのか……なんて考えながら山田とクラスメイトの会話を教室に着くまで聞いておくことにした。     「景品は食事券だった!今日は皆で打ち上げに行こう!」  男子と女子の着替えが終わり教室に全員揃ったところで優斗は皆にそう話しを切り出した。  前に立つ優斗と雫の手には、全国チェーンの飲食店で使える金券が握られていた。 「来れない人は、後で俺のところに来てくれ、多いようなら後日にしよう」  最後に「みんなお疲れ!」と締めくくった優斗に、なぜかクラスから多くの拍手が。 「最高だったぞ!」とか「かっこよかった!」なんて言葉が飛び交う教室に、さっきの山田との会話は気のせいだったのか……そう思ってしまった。  なんで俺のクラスは話し相手で別人になるんだ……反応に困るし居心地が悪すぎる。  最後に担任が連絡事項を伝えて解散となった教室では、この後の打ち上げの話で持ち切りになっていた。  ほとんどの生徒が、体を動かし汗を掻いているため、一度帰宅してから着替えて集合ということになり、男子は雫の私服が、女子は優斗の私服が見れると大いに喜んでいた。 「じゃあ俺は先に帰るわ」  いつも以上に賑わう教室から、少しでも早く立ち去る為、俺は荷物を持ち席を立つと隣の綺羅坂に声をかける。 「じゃあ私も帰ろうかしら?」  隣の綺羅坂も荷物を持つと俺の隣に立ち、共に教室を後にした。  すでに暗くなってしまっている校舎内は、学校行事の後に感じる特有の騒然とした雰囲気に包まれていた。 「真良君は打ち上げ行くの?」  二人で横に並び階段を下りている最中、綺羅坂は俺にそう聞いてきた。 「……俺は―――」 「湊君!打ち上げに行きましょう!」  彼女の質問に答えた俺の声は、後ろから走り寄って来た雫の声で遮られた。  雫は興奮したように俺の胸元に掴みかかる。 「だから、俺は打ち上げには―――」 「湊!今日の打ち上げはもちろん参加するだろ?」  今度は優斗が、二人に返事をしようとした俺の声を遮る。  計ったかのように同じようなタイミングで声をかけてくる二人に、若干イラっとしてしまったが、俺の返事を伝えるべく心を落ち着かせる。 「あのな……俺が行くわけ―――」 「真良君が行くわけないでしょ?あなた達ならそんなの分かるでしょ」 「……よし、少し黙れお前ら」   俺の答えをしっかり聞いていないはずなのに、後ろで言い合いを始めた綺羅坂と雫。  バスケの試合で見せた抜群のコンビネーションもここでは欠片も感じない。  そして、それを宥めようとしている優斗を尻目に、俺はこの場から立ち去ることにした。  きっとこのまま話をしようとしても、彼女達の声にまた遮られてしまうからな。
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