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理由 6
二人を連れて家を出たのが午後七時の少し前。
すでに夕日は沈み、道の脇に建つ街灯が三人の歩く夜道を照らしている。
普段、学生が多く使うこの道は、今は帰宅中のサラリーマンが大半を占めていた。
昼間とは違い、この時期の夜風はまだ肌寒さを感じさせる。
「そういえば楓に何を話してたんだ?」
俺は少し先を歩く二人の背を見て、不意に先ほどの光景を思い出した。
二人が楓の耳元へ顔近づけ、何やら作戦会議をしていた光景だ。
俺と彼女達の会話を、特に興味もなさそうに聞いていた楓に彼女達が何かを伝えると、楓は突然目の色変えていたのでずっと気になっていた。
「それはあとで教えてあげます」
雫は楽しそうにそう答えた。
要するに今はまだ教えられないという事か。
気にはなっているが、特に深く追求するつもりもないので、この話はここまでにした。
話すネタもなくなり、三人の靴底が地面に擦れる音だけが響いていると、ポケットのスマホが振動しているのに気が付いた。
画面には着信があったと通知があり、履歴を確認すると優斗からの着信が十件ほど並んでいた。
学校指定のカバンの中に放置している間に、電話が五分ごとにかけられ、他にもメッセージも何件か届いていた。
「……部屋に置いたままだったから見てなかったな」
電話を掛けなおそうとしたときに、丁度新しいメッセージが届き『来れそうならメールでいいから返事をくれ』と送られてきたので、今初めて連絡が来ているのを知った旨を伝え、向かっていると返事を返した。
前を歩く雫も、自分のスマホの画面を見て「あっ!」と声を出していたので、俺の家で連絡してからは確認をしていなかったんだろう。
こればかりは申し訳ない気持ちでいっぱいだ……後で謝っておこう。
俺達が店の前に着いたのは、開始時間を十五分経過したあとだった。
店の外からでも、クラスメイト達が楽しそうに食事をしているのが見えた。
「入りにくいわね」
そう呟いた綺羅坂の気持ち話よくわかる。
授業に遅刻した時と同じ気分だ。
後から入ると下手に注目を集めて、とても居心地が悪い。
中に入るのをためらっている俺達とは違い、雫は「行きましょう」と、すぐに店の戸を開く。
カランカランと、扉に付けられたベルの鳴る音に、盛り上がっていた会話は一時中断する。
そして入ってきたのが雫だとわかると、今まで以上の盛り上がり方をする店内。
「あ、いまだ」
ほとんどの生徒の視線が雫に向いているのに気がついた俺は、さりげなく店内に忍び込む。
綺羅坂も俺の後に続き店内に入ると、クラスメイトが座っている席から通路を挟んだ反対側の席に座る。
二人掛けの小さな席は、個室に出来るように引き戸も付いていたのですぐにそれを閉める。
「これで一応は参加したことになるな」
「確かに、店の中には入っているから参加していると言えるわね」
優斗に一言、連絡を返せなかったことを謝っておきたかったが、今の盛り上がり方では、まだ声をかけるのは無理そうだ。
席に置かれていたタッチパネル型のメニュー表で、二人分の飲み物を注文してから俺は綺羅坂に尋ねた。
「俺が言えた事じゃないが、綺羅坂も参加しないんじゃなかったのか?」
「確かにあなたが言えたことではないわね」
彼女は店内の音でかき消されてしまう程度にクスリと笑うと、指を二本立てた。
「私が参加することにした理由は二つ、一つは、もう少し真良君と話をしたかったからよ、都合よく個室も取れたことだし……でもまあ、これはついでよ」
それともう一つ
彼女はそう言うと、雫と密かに話していた内容を話し始めた。
「真良君とあのイケメン君と神崎さんの三人で日曜に遊園地に行くのでしょう?」
「遊園地?」
俺の脳内スケジュールには日曜日には何も書かれていない。
つまりは家でのんびりしている日のはずだ。
俺はそんな予定はないと綺羅坂に告げると、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「彼女の話だと、日曜日に遊園地に行くからそれに私を参加させるというのが今回真良君を譲る条件だったのだけど」
「楓ちゃんもそうよ」と言いながら、彼女は運ばれてきた飲み物でのどを潤す。
日曜に遊園地へ連れて行ってもらえるから楓は驚いていたのか……
というか、綺羅坂はさらっと譲るとか言っていたけど、俺は君の所有物ではないのだが……
色々と先ほどの場面に納得がいったところで、そもそもの疑問について確認するためにスマホを取り出す。
連絡先から、スマイル製造機という名前の連絡先に登録されたアドレスに短く一言メッセージを送った。
『聞きたいことがあるから外に出てきてくれ』と
「ちょっと待っててくれ」
綺羅坂にそう告げ、俺は一人店の外へ出る。
ちらっと優斗が座るほうを見ると、あいつも俺からのメッセージに丁度気が付いていて、周りのクラスメイトに一言伝えると席を立っていた。
外に置かれたベンチに腰かけて待っていると、出てきた優斗が隣に座る。
「さっきは連絡に気が付かなくて悪かったな、部屋に置いたままにしていてさ」
「そんなことか、気にすんなよ」
とりあえず、外に出てきた優斗には、最初に先ほどの件についてちゃんと謝罪をしておいた。
これは確実に俺が悪いからな。
優斗にも謝ったことだし、これで聞きたかったことを心置きなく聞ける。
俺は優斗の手を両手で握ると、渾身の力を込めてこう言った。
「お前……日曜日になんで俺も一緒に行くことになってんだ?」
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