理由 7

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理由 7

 俺の一言で、優斗はなぜ呼ばれたのか瞬時に理解した。  その顔には、バレてしまったという焦りと、同時に申し訳なさそうにしているのがわかった。 「まぁいい……でも説明してくれ、どうやったら俺も一緒になんてことになるんだ」 「分かってる、それはもちろん説明する」  俺は力強く握っていた優斗の手を離すと、深く背もたれに寄りかかり、話しを聞く体制を整える。  優斗は少し前かがみになり、経緯を説明し始めた。 「今朝になるな、俺は神崎さんに日曜に出かけようって誘ったんだ」 「……ほう」 「それで、OKを貰うことができたんだ」 「ここまでは順調だな」  ここまでの話しでは、俺の家で話をしていた通りの流れになっていた。  俺にとってはここからが重要なのだが…… 「そして……湊も一緒に行くことになった」 「ちょっと待て、俺の聞きたかったことが一つも入っていないんだが」 「俺にだってよく分からなかったんだ」  そう言い頭を掻く優斗は、その時の状況を事細かく話してくれた。  二人が話をしたのは登校した後、生徒全員が着替えを済ませ、一度HR(ホームルーム)のため教室に戻った時だった。  教室で一日の日程が書かれた紙を、雫が見ている所に話しかけたらしい。 「神崎さん、ちょっといいかな?」 「はい?なんでしょうか?」  雫は手に持っていた紙を机に置くと、優斗の方へ体を向ける。 「もしよければ、今週の日曜日に遊園地にでも行かない?」  優斗はバクバクなる鼓動を感じながらそう告げたらしい。  ここ数年で一番緊張したと言っていた。 「遊園地ですか!いいですね、行きましょう!」  優斗の誘いを雫は満面の笑みで快諾したらしい。  そして、当日の話をしようとした時に、優斗の予定は狂った。 「では、湊君にも話しをしなくてはいけませんね!」 「えっ!?」 「私から放課後にでもお誘いしておきますので!」  こうして雫の勘違いを正すことができないまま、今に至るらしい。  確かに優斗がよく分かっていないというのも、少しは分かった。 「でも、すぐに二人だけと言っていれば、こんな状況にならなかっただろ?」 「言おうとしたさ、でも話しをしようとしたらすぐにどっかに行ってしまったんだよ」  その後も優斗は雫に話しをしようとしたらしい。  試合後に俺達三人がいるところに来た時も、俺が屋上に向かった後に話しを切り出したらしい。  だが、用があるからと具体的に話をすることができなかったらしい。 「もうそこまで話しが広がっているなら、今更二人ともいえないだろ?」  肩を落とす優斗を見て、今回は断るのが難しいそうだなと思った。  楓も仲間に入れている時点で、俺には断ることができない。  雫の奴もさすが長年の付き合いだ、俺の弱点をよく分かっている。 「……当日に二人になりたいなら、お前が頑張るしかないな」  一言、優斗にそう告げて俺は店内に戻った。  後ろから「あぁ、任せろ!」と、気合いの入った返事が聞こえてきたので、当日の頑張り次第だろう。  店内は依然、大盛り上がりで、店内の他の客に迷惑だろ……なんて思いながら個室に戻る。 「あら?早かったわね」  追加で頼んだのだろう紅茶を飲みながら俺を出迎えた綺羅坂。  ただ紅茶を飲んでいるだけで、ここまで絵になる人はそうはいない。  動きの一つ一つが映えて見えるのだ。  そんな姿を見ていたら、俺も無性に紅茶が飲みたくなり、追加で注文した。 「ちょっと確認をしていただけだからな……確かに日曜日に遊園地に行くらしいな」 「そう、神崎さんの嘘ではなくて良かったわ」  少し安堵したように息を吐く。  そして彼女は、引き戸を少しだけ開けて、向かいに座るクラスメイト達の様子を確認した。  だが、すぐに戸を閉めて、空かないように手で押さえていた。 「……何してんの?」 「気にしないで、ただこうしたい気分なのよ」  右手で押さえていた彼女は、何を思ったのか両手で戸を抑える。  俺は何をしているのかと見ていると、一瞬だけ戸が少し空いたと思えば、綺羅坂が閉める。 「そんな押さえてると俺の紅茶が届かないんだが」 「……それもそうね」  綺羅坂は渋々抑えていた手を離すと、勢いよく戸が開かれれる。 「何をコソコソとやっているのですか」  外から開けようとしていたのは雫で、綺羅坂はそれを押さえていたらしい。  雫は、俺の横に体を押し込むように座ると、対面する綺羅坂を鋭い目つきで睨む。 「なにって、私はただ真良君とお話しをしていただけよ?私達はあの輪の中に入るのは嫌だもの」 「なら、私に一言言ってからにしてください!」  毎度のこと仲の悪い二人が険悪な雰囲気になりそうな時、ちょうど俺の頼んだ紅茶を運びに店員が中に入ってきた。  俺は、目の前に置かれたカップを手に取り、先ほどの綺羅坂の動きをまねて紅茶を飲む。  ……うん、止めよう  これは俺がやっても全く絵にならない。  普通に紅茶を飲みながら、彼女達の会話をボーっと聞いておくことにした。
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