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「と、父さんを、一人残して出て行くなんて、逃げるなんて、できない!」
「なんでだよ!」
昔は確かにグレて荒れていた稔だけど、今は滅多に声を荒らげたりしない。そんな稔のいつにない剣幕に私は慄いた。
「何故そんな反応をするの! 子が父を想うのは当然ーー、」
「俺、見たんだ!」
私の言葉を稔の悲痛な響きを含んだ声が遮った。
「何を?」
何を見たの、と聞こうとした時電話が鳴った。
『莉緒、早く帰って来い!』
父からの電話だった。
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