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慌ててのばした手は空を掴む。先生は一瞬のうちにどこかへ消え去ってしまった。自分の部屋の中を見回してから、急いで部屋を出て玄関に向かう。綺麗にそろえたはずの先生の靴はどこにもなかった。
動悸が激しくなり思わず呼吸が荒くなる。超高速で回転する僕の脳は、先生を追いかける術にたどり着くことはできなかった。先生の家族に聞きに行くことはできるんだろうけど、教えてくれるとは思えず、葬儀会社が事情を汲んでくれたという先生の話を信用するなら、家族も葬儀会社も先生に協力したってことだろう。
玄関で荒い呼吸を繰り返していると、玄関のドアが突然開く。目の前には買い物袋持った母親の姿があった。
「あら。どうしたの?どこか行くの?」
困ったような顔で笑う母親に僕は真剣な表情を向ける。別に自分の才能を活かしたいとか、今の環境を抜け出したいってわけじゃない。
先生を追いかけたい。
もう一度会って話したいという想いが僕を駆り立てた。今までずっと隠していた秘密をやっと話す気になったのだ。
「お母さん、話があるんだ。僕、僕さ」
突然のことにお母さんはきょとんとしている。この後の騒動を考えると気が重かったけど、それ以上に僕にとって重大なことができた。
この時以来、僕は何とかして先生を光のもとに連れ戻せないかと必死で考えるようになった。
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