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ミューレンの雑貨屋 4
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食材を買い求めに出かけようとしていたところ、店の常連客であるハンナが通りすがった。そして今日は休みなのかと問いかけてくる。
「いえ、違うんですよ。レニーさんが体調を崩してしまって、看病のために少しの間、お店を閉めてるんです」
「レニーちゃんがかい?」
ハンナは驚いた様子で目を丸くする。
「もう! カルザスくんはお兄ちゃん代わりなんだろう? なんだってレニーちゃんをそんなになるまで放っておくんだい!」
「すみません。僕もレニーさんも、健康を過信していたみたいで……レニーさんも細身ではありますが、意外と体力はある方だと思っていたんです」
「莫迦お言いでないよ。あんな華奢な子、体力があるはずないだろう? よし、決めた。アタシが栄養のあるものを作ってあげるよ。キッチン、借りるからね」
「ちょ、ちょっと待ってください」
強引に家の中に入ろうとしたハンナを、カルザスは慌てて引き止める。
「今から食材を買い出しに行く途中で……それにハンナさんにそんなご迷惑はお掛けできませんよ」
「何気にしてんだい? ウチの子たちはもう独り立ちしちゃったし、今はあんたたちが子供みたいで可愛いんだよ。ここはこの、お節介なオバチャンにどんと任せな」
「しかし……」
「男料理でマトモなレシピがある訳ないだろ。なに、アタシのスタミナ料理を食べたら、風邪なんて一発で追っ払っちまうさ」
カルザスはしばらく考え込み、ハンナの厚意に甘えることにした。確かにハンナの言う通り、カルザスもレニーも、それなりに料理や家事をこなせるが、それは毎日に困らない程度の腕前でしかない。ここはハンナに甘え、レニーが回復するまで見守ってもらうという手もありだと考えたのだ。それに他人の厚意を無下に断り続けることも返って失礼だ。
「ではお言葉に甘えます。まず買い出しから、一緒に行っていただけますか?」
「よしきた! このアタシに任せときな」
ハンナは貫禄のある体型を揺すりながら、豪快に笑って見せた。カルザスもつられて笑顔になる。
この豪快でお人好しの女性は、周囲を元気にする魔法でも使っているのだろうか。カルザスはハンナと共に、朝市の開かれている町の大通りへと向かった。
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