私は欠片、私は海。

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私は欠片、私は海。

私は、私という海を漂う小さな欠片。 上手に泳いでいられる時もあった。 あったような気がする。 あったのかな。 本当は波に揺られているだけのことを、 自分の力で泳いでいると、 勘違いしているだけだった気もしてくるな。 あぁ、なんだか沈んでいく。 泳ぎ方がわからない。 泳ぎ方を忘れてしまった。 いや、本当は泳ぎ方なんて知らなかったのかな。 沈んでいく。 沈んでいく。 どこまでも、深い深い海の中を。 あぁ、いっそ海から出てしまいたい。 私は私でなくなりたい。 海の外へ、もっと安定した大地へ。 私が私である限り、 このおぼつかない浮遊感は永遠に続くのか。 あぁ、沈む、沈む、沈んでいく。 もう陽の光も届かない、何も見えない。 私は私自身の形も認識できぬまま、 沈む、 沈む、 沈み、 しかしやがて底へと辿り着き、 地に足を着く。 あぁ、私の海には器があって、 私は私の形を持っている。 大地になど出なくとも、 私は地に足を着いて存在している。 深く暗い海の底、 闇に包まれて、 やっと安らかな眠り。 だけど、 もう一度、 やっぱりもう少し、 陽の光が見たくなる。 ここは安らかだけど、 生きていると呼ぶには曖昧過ぎる。 私は地を蹴り泳ぎ出す。 浮かび上がるまで、力の限り。 きっとこんなことの繰り返しなのだとは思うけれど、 それでも、 たとえまた泳ぎ方を忘れてしまうのであっても、 私は私、 私という海の中を泳ぎ続け、 また沈んではまた浮かび、 それでも陽の光の中で生きようと、 力尽きるまで、 漂い続ける。
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