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「わたしは亜沙、あなたが……」
「章広さん?」
浴衣姿の亜沙を自分の懐に引き入れた。
「理由は言えません。わたしが家を出ることを許してください。家を出てもあなたのことは一生忘れません」
「……わたしを置いてくの」
抱き締めてはいけない。
すぐに離れなければ。
そう思うのに、胸に抱きすくめたまま離せない。
亜沙の声が耳に触れると抱きすくめてる腕に力が入っていく。
「……置いていかないで……お願い」
周りの音が聞こえなくなる。
亜沙の声だけ。
亜沙の鼓動だけ。
亜沙の泣き顔だけが世界。
その黒真珠から零れ落ちる涙にくちづけた。
「亜、沙」
「…行かないで…おね…がい」
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