許嫁

3/13
前へ
/15ページ
次へ
花火が打ち上がり、夜空を派手な光が彩る。 遅れて聞こえる響く音と、歓声。 誰もが釘付けになる花火に背を向けた。 「……今、なんて、言ったの?」 鈴のような声が震えて聞こえた。 「わたしは家を出ます。あなたとの婚約も解消します」 「……うそ」 「嘘ではありません。父母にも話して勘当されました。わたしはもう前田家の人間ではありません」 この辺りでは名の知れた旧家。 跡取りの兄とふたり、旧家の令嬢をいずれ嫁に迎えると決められていた。 「婚約は破談となります。この詫びは日を改めて」 「うそでしょう?章広さん。こっち向いてください。どういうことですか?」 「理由は……言えません。わたしのことは忘れてください」 振り返れない。 振り返れば大事な女を抱き締めてしまう。 家を出る自分は、彼女を道連れにすることは許されない。 想いを残してはいけない。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加