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花火が打ち上がり、夜空を派手な光が彩る。
遅れて聞こえる響く音と、歓声。
誰もが釘付けになる花火に背を向けた。
「……今、なんて、言ったの?」
鈴のような声が震えて聞こえた。
「わたしは家を出ます。あなたとの婚約も解消します」
「……うそ」
「嘘ではありません。父母にも話して勘当されました。わたしはもう前田家の人間ではありません」
この辺りでは名の知れた旧家。
跡取りの兄とふたり、旧家の令嬢をいずれ嫁に迎えると決められていた。
「婚約は破談となります。この詫びは日を改めて」
「うそでしょう?章広さん。こっち向いてください。どういうことですか?」
「理由は……言えません。わたしのことは忘れてください」
振り返れない。
振り返れば大事な女を抱き締めてしまう。
家を出る自分は、彼女を道連れにすることは許されない。
想いを残してはいけない。
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