許嫁

7/13
前へ
/15ページ
次へ
「どうして家を出るんですか?理由を聞かせて。わたしが嫌い、だから?」 「違う」 亜沙が眉を下げて泣き顔になった。 そのさらさらの黒髪に触れたい。 強気な瞳の奥で光るものを流させたくない。 あなたのことは嫌いなんじゃないと。 誰よりも大事な女性だと抱き締めたい。 「……じゃあ、どうして家を出て、わたしとの婚約を破談にするの」 「……亜、沙」 「どうして……わたしを置いていくの」 堪えきれずに、亜沙の瞳から涙が零れ落ちた。 いずれ夫婦になると誓いを立てた。 あれは自分が二十歳。亜沙が高校の頃だ。 亜沙が大学を卒業すると同時に嫁入りが決まっていた。 そんな亜沙を嫌いなわけがない。 決められていたとはいえ、幼い頃からずっと想っていた。 「……亜沙、わたしとあなたは」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

147人が本棚に入れています
本棚に追加