147人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうして家を出るんですか?理由を聞かせて。わたしが嫌い、だから?」
「違う」
亜沙が眉を下げて泣き顔になった。
そのさらさらの黒髪に触れたい。
強気な瞳の奥で光るものを流させたくない。
あなたのことは嫌いなんじゃないと。
誰よりも大事な女性だと抱き締めたい。
「……じゃあ、どうして家を出て、わたしとの婚約を破談にするの」
「……亜、沙」
「どうして……わたしを置いていくの」
堪えきれずに、亜沙の瞳から涙が零れ落ちた。
いずれ夫婦になると誓いを立てた。
あれは自分が二十歳。亜沙が高校の頃だ。
亜沙が大学を卒業すると同時に嫁入りが決まっていた。
そんな亜沙を嫌いなわけがない。
決められていたとはいえ、幼い頃からずっと想っていた。
「……亜沙、わたしとあなたは」
最初のコメントを投稿しよう!