アパートにて

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 それはそうと俺は昼間、本当にどうかしていた。  これといった用が有る訳じゃないのに交番に入って行くなんて正気の沙汰じゃない。  おまけに自分が痴漢だと白状するなんて実に今日の昼間の俺はおかしな上に大胆極まりなく常軌を逸していた。  嗚呼、それにしてもおかしな会話をしたものだ。  それもお巡りとだ。ハッハッハ!  いやはや全くおかしな話だ。  而もチェーホフの言葉を持ち出したりして我ながらふるってたなあ。  そう、自分が道徳家で、てめえらが卑劣漢だと力説する為に・・・  だって実際そうじゃないかとグラスを傾けながら俺は思っていると、玄関から物音がした後、帰って来てやったわよ!と妻の甲走った声が聞こえて来たのでアルコールで紛らわしていた心が急激に晴れ晴れして光風霽月となった。 「私、頭来て実家に帰ってはみたんだけど、お母さんがねえ、政治さんはいい人だ、あんないい人から逃げるなんて、あんたは暑さの所為でよっぽど頭がおかしくなってるねって言うもんだからさ!」  そう言いながらリビングに入って来た妻に対して俺は写真を見ながら面目ない気がして矛盾を感じておかしな夫婦だと思った。
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