交番にて

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「う~ん、全く今のお巡りさんの態度を見ていると、『私がドクトルで君が精神病者だということには道徳性も論理もない。只、無意味な偶然性があるきりです』というチェーホフの言葉が思い出されます」 「はあ、こらまた話が高尚になって来ましたねえ」 「つまりです。私はこう置き換えて考えてみるのです。私が痴漢であなたが警察だということには道徳性も論理もない。只、無意味な偶然性があるきりですと」 「あなた、また自分のことを痴漢って言いましたが、警察の前でよく言えますねえ」 「まあ、痴漢が罪だってことは勿論、分かってるんですが、でもね、チェーホフの言葉を換骨奪胎して言いますと、何十、何百の私よりもっともっと狂人が自由に外を散歩してますが、あなたはそれを見逃してますね」
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