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二時間ほどの会議でいくつかの意見は出たが、これというほどのものはなかった。対策は必要だが、俺が倒されてしまった事を重視してタカ隊長が慎重になったのもある。
現在インサイダーは俺を含めて十人のみ、教育中の者で実戦に耐えうるだけの実力者もまだ育ってない為に一人の損失でも戦力低下が響いてくるからだ。
ひとまずマティアの件は調査が必要とだけ決まり、カラスが捜索隊を編成して追跡する事となる。他の者も警戒を強めつつも通常の任務を行う事となり、俺は詰め所にて待機の命令を受けた。
傷は回復しているがカサネ領域を取り払った事による副作用を懸念したらしい。確かに領域を取り払った事によって俺の力が確実に使えるかどうか、執行人としての仕事を果たせるのかは把握しておく必要はある。
普段やらない書類整理などの事務作業をし、合間を見て訓練を行って力の確認をする日々が三日経過。ディンス国内をシラミつぶしに捜索したもののマティアを見つける事はできなかったらしい。
この国の外は地の果てまで続くの砂の海が広がる。乾き切ったその先に待つのは確実なる死だけだ。
明確にインサイダーである俺へ敵対行動をとったマティアが既にアウトサイダーと接触してる可能性もあり、三日ぶりに俺に対しタカ隊長より呼び出しがかかる。
ーーー
詰め所の入り口から正面の廊下を進むとすぐにタカ隊長の部屋はある。今日は何かが軋む音も無く、ノックに対しても低い声で入れと答えた。
失礼します。
執務用のやや高さのある机と椅子に左右の壁にある本棚に納められた読み込まれた本の数々。机にはいくつもの書類とそれに加筆修正する為の筆ペンや認印の数々が整理して置かれており、その前に向かって座るのはタカ隊長だ。
「イスカ、具合の方は良さそうだな」
問題ありません。
多少の調整こそ必要ではあったが三日の間に能力を使うのに問題がないのは把握できている。むしろ俺が現場に出れない分他のインサイダーに負担をかけ、さらに人員を割く場面を増やす事で危急の際の綻びも大きく響いてくるだろう。
ましてやマティアと遭遇し、倒された場合はインサイダーの数を減らしてしまい反乱分子たるアウトサイダーの脅威も増す。連鎖的に国の崩壊へと繋がれば、残された最後の国が消えることとなる。
そんな俺の考えを読んだかのように、タカ隊長は俺に対して机の引き出しより何かの書類を取り出して手渡し、受け取った俺がそれに目を通す。
渡されたのは何かのリストだった。名前と性別や年齢といった簡単なパーソナリティが書かれており、所在地も書いてあった。
「それはアウトサイダーの支援者のリストだ。中には我が国の要人も含まれている……お前には、その者たちを処罰して貰いたい」
アウトサイダーの支援者の処罰。リストを改めて見ると、ディンス国の官僚クラスの名前もいくつかあった。
わかりました。
「理由は聞かないのだな」
それが任務ですから。
理由を聞く必要はない。アウトサイダーはこの国に災いをもたらす存在、その協力者もまた同じように災いをもたらす存在と言えるだろう。
インサイダーとして俺は処罰を下すだけの事だ。今までと変わらない、俺の役目。
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