PROLOGUE

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PROLOGUE

薄暗い迷宮の中、冷たい石の壁に手が触れた瞬間その者は顔を歪め一瞬のうちに命を落とす。  灰色の石壁より突如として生命を刺し貫くのは鈍い光を返すいくつもの刃。大小も形も異なる不揃いな剣山が壁より生えて生命を奪い、付着した赤い雫を滴らせ血溜まりを作り出す。   やがて石壁に包まれたその場が煙のように消えていき、姿を現したのは砂漠化しかけている荒野と砂を含む風が吹く死の大地。  そこに残ったのは全身を刺し貫かれて辛うじて人と分かる血肉の塊となったもの。乾燥した大地に血が吸われ、風に乗って臭いが離れた鳥獣の本能を突き動かす呼び水となる。    不毛な土地、死の大地……陽光を遮る雲の下、彼は何事もなかったように歩き出す。役目を終え、次なる役目を果たすために。 ーーー  この世界は、神にも見捨てられた世界。  遥か昔、剣と魔法の二極の力をもって栄華を極めた人類がさらなる欲望を満たす為に向かったのは神の領域。しかし、開いたのは神の世界への門ではなく、悪魔の世界への門であった。  傲慢たる人類への裁きか、溢れ出る悪魔達との戦争……長きに渡る戦いが終わった時には世界はディンス国と呼ばれる大国しか残らず、他全ては水も大地も死に絶え……傲慢なる人類を見限った神もまた世界から去り、加護を失った世界に残された人類は僅かに残った生きた土地にすがりつく。  権力者達は民衆を支配する代わりに生かす道を与え、同時に、ある存在で権威を示しつつ自分達への反逆の目を潰していた。  インサイダー。  罪の意識、世界の脅威、相手の心を映し出した仮想空間を作り出し、そこで相手の力と知恵と心を見定める執行人。  神の加護を失った世界にその力は唯一残された魔法の力、神の加護を必要としない……ディンス国の諸刃の剣。脅威になる前に支配下に置き、あるいは排除することで権力を、そして絶望しかない世界を少しでも長く生きようと足掻き続ける。
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